それは女性の文房具好きとは一線を画しており、キャラクターやカラーといった文房具本来の機能的なものとは違った次元での嗜好ではなく、機能性であったりデザインであったりとどちらかと言うと文房具本来の持つ道具としての魅力によるものではないかと思います。
その中でも万年筆やボールペンといった筆記具は直接手に触れるものでもあり、現在はキーボードにとって替わられつつあるとは言え、私の学生時代には手に馴染むものを捜し求めたものでした。
中学の入学祝に初めて買ってもらったパーカー社のボールペンと万年筆はその重量感だけでなく、学生服のポケットに挿したときに、その特徴のある「矢」の形をしたクリップが見えて、少し大人になったような気がしたものでした。
その後にモンブランやクロス、カランダッシュといった筆記具の一流品に触れると、その適度な重さと握り具合に感動したのを覚えているのですが、いつしか筆記具は私の中で「書ければいいや・・・」というレベルに成り下がってしまいました。それは学生時代のように長時間筆記具を持つことがなくなったことと、文章を書くという行為がワープロやPC上での作業になってしまったためだろうと思います。
人間の脳にはスイッチがあり、気に入った筆記具を使うと文章がスラスラ出てくるものなのですが、それは手からのフィードバックが脳活動に影響を与えているからで、同様にキーボードを打つという行為も、その指先からのフィードバックが脳に影響を与えているのだと思います。そういった意味ではキーボードも筆記具と同じと言え、長時間キーボードを使うWebプログラマーのような職業の方はキーボードのキーの反発力やストロークの長さに拘りがあり、PC本体を替えても慣れ親しんだキーボードを使い続けることは理解できます。

最初にエンリコ・フミアさんから「自分がデザインしたんだ」とこのボールペンを頂いたときに、私が中学生の時に感じていた筆記具の拘りが一気に戻って来ました。
そこには「書ければいいや」というコンビニで売っているような筆記具とは一線を画す、人間工学に基づいたシェイプとフミアさんが拘りぬいたデザインの妙が具現化されていました。
私は試し書きをしてみて一気にこのペンを気に入ってしまいました。女性には少し持ち辛い太さなのですが、手の大きな男性にはしっかりと握ることができる絶妙な太さです。
皆さんも経験があると思うのですが、ボールペンのノックは決してボールペンの軸先を出し入れするためだけの機能ではありません。カチャカチャとノックすることにより脳が活性化され、様々なアイディアが浮かんでくるのですが、そのノックの反発力や音が絶妙で、ちょうどゲトラグ製のギアシフトのように小気味良い操作感を与えてくれるのです。
こうした筆記具はあくまで実用品で、筆記具である以上、どんなに素晴らしいデザインであっても書き難ければ筆記具としては落第なのですが、加えてこうした操作感まで配慮が行き届いているものは数少ないと思います。
このMytoというペンはイタリアのStilolinea社から発売されているもので、そのデザインをフミアさんが手がけたものです。特徴的なのがノックするための可動部で、当初はその複雑な形状によるコスト高から製品化が難しいと言われたそうなのですが、フミアさんは譲らず結局当初のデザインそのままで製品化に漕ぎ着けることができたそうです。
最初のデザインは2004年で発表が2006年とのことですので、開発期間が2年!とこのペンが難産であったことが伺えます。しかし、このMytoは発表と同時にそのユニークなデザインが評判となり、結果としてStilolinea社の代表的なブランドとなりました。

そして2007年にはMytoの高級版であるGlamourシリーズが発表され現在に至っているのですが、このGlamourシリーズはその名前の通り、表面を特殊処理によりゴージャスに仕立てたもので、通常のMytoシリーズとは異なり、日常使いの筆記具というより書斎のデスクに置いて眺めているだけでも満足できる出来栄えとなっています。
このMytoペンを一目見て気に入っていただけたのがCOLLEZIONEの成瀬社長で、社名のロゴをプリントしてノベルティとして製作することとなりました。
しかし、残念ながらこのStilolinea社のペンは日本では殆ど取り扱いがなく、フミアさんにお願いして仲介していただくことにしました。当初は先方の担当者を紹介して・・・と依頼したのですが、フミアさんは「友人の依頼なんだから自分がアレンジする」とそのデザインレイアウトから発注、納品まで全てを引き受けてくれたのです。
早速、成瀬社長と打ち合わせをしたのですが、そこで困ったのがあまりのラインアップの多さでした。カタログを見ると実に多種多様な色の組み合わせがあり、Stilolinea社のこのMytoシリーズに対する拘りが良く分かります。恐らく世界中を探しても特定のペンでこれほどまでのラインアップを擁しているペンはないでしょう。一体どんな在庫管理を行っているのかと思いきや、基本的には全て受注生産とのことで、日本の商売とは大きく異なっています。日本でペンを注文して2週間待って・・・と言われたら注文そのものを失うと思うのですが、この辺りもStilolinea社のペンが日本で一般的ではない理由なのかも知れません(苦笑)。
今回の注文はさらに社名をプリントするという追加加工を必要としましたので納期に関しては約1ヶ月かかるとのことでした。しかもイタリアは夏休みとなってしまい、結果として延べで2ヶ月の期間を要すこととなってしまいました。
成瀬社長も私自身も、ロゴなどの印刷に適していると書かれている通常のMytoのラインアップではなく、より高級なGlamourラインが気に入っていたのですが、このGlamourラインはその特殊な表面加工のために、ロゴの印刷は無理と言われてしまいました。しかし、あきらめきれなかった私はフミアさんにお願いして、Stilolinea社からペンのみを仕入れ、それを特殊印刷できる外部業者に印刷のみ発注してもらうこととしました。
さらにCOLLEZIONEのロゴに加えてフミアさんのサインも印刷してもらうこととし、ボールペンとシャープペンシルの2本組の各々の色を指定し、プリントするロゴの色はフミアさんにお任せして出来上がりを待つことにしました。
フミアさん自身も最初はプリントの仕上がりに関して心配していたのですが、出来上がったペンが彼の手許に届いた際に、ちょっと興奮気味にメールが来ました。そのメールには「想像していた以上に素晴らしい出来栄えだよ!」とのことで、フミアさんも自身のデザイン会社のノベルティに、従来のMytoラインのものではなく、これからはこのGlamourラインのものを製作することにしたとのことです(笑)。

さて、いよいよ納品ですが、これまた来日するフミアさんが手持ちで持ってきていただくこととなり、それでは・・・ということで直接、成瀬社長の許にお連れして納品していただくこととなりました。

来日の多忙なスケジュールの中、僅かな空き時間でCOLLEZIONEを訪問することとなったのですが、ショールームに入るなり、その在庫車を見て一番興奮していたのがフミアさんで、イタリアに帰って友人に見せる・・・と言って写真を撮りまくっていました(笑)。
素晴らしいコンディションの在庫車の中からちゃんと自分がデザインしたAlfa164とGTVを見つけ、満面の笑みで茶目っ気たっぷりで写真に納まるなど、つかの間ではありましたが楽しい時間を過ごすことができました。

イタリアのカロッツェリアを取り巻く状況は決して明るいものではありませんし、加えてフミアさんのような個人デザイナーが量産車の自動車デザインに入り込む余地は殆どないと言えるでしょう。
しかし、彼自身はデザインに対する情熱を失ってはおらず、カスタムカーのデザインプランなどを見せてくれましたので、フミアさん自身もその少ない可能性を模索しているようです。
できれば何らかの形で、彼のデザインを世に出すお手伝いができればと思っています。
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