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走ってナンボ

アルファ・ロメオを始めとする「ちょっと旧いイタ車」を一生懸命維持する中での天国と地獄をご紹介します。

Alfa RZの初期化~その五~

ご存知のようにアルファ・ロメオの一連の市販モデルであるアルフェッタからアルファ75まではトランスアクスルという独特のパワートレインを採用していました。このレイアウトはグランプリカーであったアルフェッタ(小さなアルファ)と呼ばれたTipo159(158)に由来します。

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トランスアクスルとはフロントにエンジンを配置しながら車体の重量配分をミッドシップ並の50:50に近づけようとするレイアウトで、一般的にはエンジンと一体とされたミッションケースをエンジンから切り離し、リアのデファレンシャルギアと連結して配置することにより重量を分散する配置方法です。
このレイアウトはグランプリマシーンであるTipo159に採用され、その運動性能の向上に寄与したのですが、一方で良いことばかりではなく、ごく限られた市販車にしか採用されなかったのは、製造コストや振動、そしてメンテナンス性に問題があったためで、トランスアクスルを採用したクルマに乗るということはある意味でとても贅沢なことだと思います。

以前にもご紹介したのですが、アルファ・ロメオが市販車に採用したトランスアクスルをアルファ75を例に見て見ましょう。

75-16.jpg

エンジンの直後に接続されているクラッチとミッションケースが、リアにデファレンシャルギアと一体となって配置されていることがお分かりいただけるかと思います。
そもそも1972年に発表されたアルフェッタセダンに何故、このトランスアクスル方式が採用されたのかと言うと、ライバルを凌駕するスポーツセダンとしての運動性を手に入れたかったことに加えて、エンジンの後方にミッションケースがないことによる室内空間の確保で、結果としてライバルの同サイズ車に比較すると大きな室内空間と、素晴らしいハンドリングを得たアルフェッタは、スポーツセダンとして今尚、伝説的な評価を受けています。

しかし一方で前述したように、このトランスアクスルには問題もあり、製造コストの問題は「買ってしまった」オーナーには関係ないことではありますが(苦笑)、それ以外の点はオーナーにとっては由々しき問題で、結果としてアルファ・ロメオのトランスアクスル方式モデルの生存率を悪化させる原因となっているのです。

トランスアクスル方式であるとクランクシャフトの回転数はギアで減速されずに、ボディ下のプロペラシャフトによりリアまで伝達されることとなります。すなわち、エンジン(クランクシャフト)が5000回転で廻っているときにはプロペラシャフトも5000回転で廻っているということで、グランプリカーであればともかく、乗用車であればその振動や音を抑えなければとても乗れたものではありません。
アルファ・ロメオはその対策として、プロペラシャフトの前後と中間にカップリングと呼ばれるゴム製の緩衝材を挟み込むことにより防振と制音対策としました。

RZP003.jpg

上の部品図の6番、5番、15番がそのカップリングなのですが、この緩衝材は走行距離だけでなく、ゴム製ということから経年劣化でも交換を必要とします。またエンジンマウントが劣化することによりエンジンの位置が下がると、プロペラシャフトが真っ直ぐでなくなってしまい、それが原因となってカップリングを傷める原因にもなります。
そしてその交換のためにはプロペラシャフトを外さなければならず、オーナーはその高額なメンテナンスコストを負担しなければならないのです。
そしてカップリングが痛んでくるとプロペラシャフトは異常振動を始め、それは不快な音や振動をボディに伝えて来ます。またこの異常振動はプロペラシャフトの位置を固定しているサポートベアリング(部品図の2番)の寿命も縮めることとなります。

さらにカップリングの劣化はクラッチ側にも影響を与えます。
エンジンと等速で回転するプロペラシャフトの振動を抑えることができなくなると、その振動はクラッチ側のシャフトにも伝わることとなります。そしてクラッチ側のベアリングの寿命を縮めてしまいます。

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上の部品図の8番、10番、19番がそのベアリングなのですが、これらのベアリングが痛むと、同様に不快な振動と音を発生します。

どんなクルマであれ、オーナーにとってクルマから発生する音と振動を見分ける(聞き分ける)ことはメンテナンスにとってとても重要なことだと思います。

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私が管理?することになった友人のアルファRZはアルファ75のエンジンとシャーシーを使って造られたクルマなのですが、最初にオーナーから連絡を受けたのはこの音と振動についてでした。
私自身も試乗をして確認したのですが、最初に確認できたのは1500回転付近で聞こえてくる異常な音と振動でした。しかし、クラッチを切ると聞こえなくなることから、プロペラシャフトに関係する問題ではなく、クラッチを繋いでギアボックス側に回転を伝達することにより発生する問題であることが分かり、これはクラッチベアリングの磨耗であると想像できました。また、注意して見ると(聞くと)音と振動は1500回転付近で発生するのではなく、全回転域で発生していることが分かりました。1500回転というのは共振のために分かりやすかっただけで、回転が上がることにより振動周波数が高くなり、感じにくくなっているだけだったのです。

しかし、このクラッチベアリングは単独で磨耗することはあり得ません。前述したように、クラッチベアリングが磨耗するにはカップリングの磨耗が影響しているはずで、早晩、カップリングからの異音(プロペラシャフトの偏芯)が聞こえてくるはずです。
この時点で主治医であるクイック・トレーディングとも相談し、部品の手配を開始することにしたのは、異音と振動の原因が複合要因であるためと、メンテナンスの手間を考えてのことで、プロペラシャフトを外さなければならないメンテナンスは当然カップリングも外すこととなり、経年劣化して痛んでいるであろうカップリングは外すことにより一気に砕けてしまう可能性が高かったからなのですが、この予想は見事に的中してしまい、ついには走行中にカップリングからも異音がするようになってしまいました(苦笑)。

RZP004.jpg

実は、オーナーにはクラッチセットとカップリングを前もって購入して保管してもらっていました。これらの部品は入手難となっており、見つけたときに買っておかないと手に入らない可能性があったことと、アルファRZに限らず、トランスアクスル系のアルファ・ロメオを購入した場合は初期化として必ず交換を必要とする部品であったからなのですが、これほど早く交換することになるとは思いませんでした(笑)。

上の部品図はクラッチ部分ですが、青で囲んだ部分はクラッチシャフトです。実は純正のクラッチキットはこのシャフトが付属しているのですが、OEMのクラッチキットにはこのシャフトがありません。音や振動が出る前に交換するのであればまだしも、今回のようにプロペラシャフトが原因で交換する場合はこのシャフトも傷んでいる可能性が高く、少々値段が高くてもシャフト付のクラッチキットを購入しておくべきでしょう。
オーナーにはもちろんこのシャフト付のクラッチキットを購入してもらっていましたので、今回は良い機会ですのでクラッチも併せて交換することとしました。
これも今後のメンテナンスコストを低減するための予防整備ですが、同時にクラッチレリーズシリンダーとホースも交換することとしました。
今回は部品図の赤丸の部品を手配することとしましたが、「あるところにはある」もので、日本国内では入手が難しいこれらの部品も世界中を探せば手に入れることができました。

メンテナンス・ガレージに整備を依頼する際に、「音がする」という表現だけで預ける方がいますが、実はオーナー以上にそのクルマのことを知っているメカニックはいないと思います。
自分の愛車の構造をある程度理解していると、異常を感じたときに、それがどの状況で起こるのかやどんな音や振動がどこからするのかを色々と試してみて分析することができ、それをメカニックに伝えることにより、問題部分の特定を早くすることができたり、しばらく乗っていても大丈夫なのか、これ以上乗らないほうが良いのかなどアドバイスを受けることができるのです。
もちろん整備そのものに関する知識や技能は別ですが、通常の状態と異常な状態との違いを一番知っているのはオーナーで、病院で受診する際に単に「お腹が痛い」では医者も診断のし様がないのと同じで、少しでも的確に状況を伝えることにより、メンテナンスの時間を短縮したり、コストを低減することができるのです。

部品が届いたらメンテナンスを始めますが、実は今回の整備も初期化の一環で、残る初期化はタイミングベルト関連のみとなりました。
トランスアクスル系のアルファ・ロメオの欠点がこのメンテナンスの問題で、その手間とコストに音を上げて手放してしまったオーナーはともかく、今尚、この「地獄クルマ」を愛して止まないオーナーは、完調時のトランスアクスルの美点を知り尽くしている方々で、それがために維持していると言っても過言ではないでしょう。
このアルファRZのオーナーも今回のメンテナンスが終わって乗り出せば、このトランスアクスル症候群に罹患するかも知れません(笑)。

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テーマ:Alfa Romeo - ジャンル:車・バイク

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