
これらのクルマはそのモデルが独立して一つのクルマの形として存在しており、VOLKSWAGEN社の一品種としてのBeetleではなく、「Beetle」として認知されていますし、同様にMiniも歴史的に次々と変ったメーカー名を飛び越えて、Miniとして認知されて来ました。その理由は、クルマのコンセプトが明確で、そのコンセプトに忠実に具体化したクルマであったことで、そのコンセプトそのものが支持されると、そのクルマは当に「それ以外には考えられない」モデルとなったからではないかと思います。
これほど「鉄板」のモデルが世に出ると、メーカーとしてはベストセラーモデルを持つと同時に、新しいジレンマを生むことになります。それは後継モデルの問題で、コンセプトが同じであればすでに「正解」が世に出ているのですから、次のモデルは先代を超えることができず、優れた実績のあるコンセプトを変えてしまうと、そのコンセプトそのものが支持されなければ全く売れない・・・というジレンマなのですが、案の定、MiniもBeetleもこのジレンマに陥ってしまいました。現在のMiniはオリジナルのMiniのコンセプトとはまったく別の、単にルックスだけを似せたものですし、New Beetleも同様です。唯一、違った方程式でその同じコンセプトを解くことに成功したのがGolfであったと思うのですが、残念ながらそれ以外のモデルは、その初代が唯一無二のモデルとして今尚、「正解」であり続けているのですから、名車を世に出したメーカーが必ずしもビジネスとして成功したワケではないことは、マーケティング論のケーススタディとして取り上げる価値のある実に皮肉な現象ではないかと思います。
そしてFIATのPandaもその「正解」の一つだと思っているのですが、このPandaの魅力は「安物」であることだと思います。生活の道具としてのPandaのコンセプトは実に明確です。そしてその明確なコンセプトを具体化したのは巨匠ジゥジアーロで、彼は同時に初代のGolfのデザイナーでもありますので、この実用生活車というコンセプトを具体化する名人であると言えるでしょう。
Pandaはそのコンセプトである「安物」を全く隠そうとしないクルマでした。徹底的にコストダウンされたパネルは簡単なプレス型で製造でき、フロントガラスは全くアールのない平板なものでした。また、通常は左右別に製造される樹脂パーツは左右対称になるようデザインされており、天地を変えれば左右のパーツを共用することができます。室内は鉄板剥き出しで、樹脂パーツには平気で成型時のバリが残ったままのものもありました。
しかし、このPandaは絶大な支持を受けることになります。その理由は「安物」であることが「貧乏臭く」なかったことで、あたかも日用雑貨のように安心して気を使わずに使い倒すことができたからだと思います。
同様の実用生活車というコンセプトを持つのが日本の軽自動車だと思うのですが、これらの軽自動車とPandaとの決定的な違いはこの「貧乏臭さ」だと思います。つまり少しでも高級感を出すために、樹脂パーツにレザーのような表面加工を施したり、安物のシートに無理をして高級感のあるファブリックを使ったりした内装は、知恵と技術の結晶ではあると思うのですが、それはどこまで行っても「もどき」でしかなく、そんな薄っぺらな「高級感」は、ショールームで見るときはともかく、いざ手に入れて使い始めるとユーザーに惨めな「貧乏臭さ」を感じさせてしまうのです。
しかし、一方のPandaは堂々と安物感を前面に押し出して来ますが、それは安物であることを前提としたデザインであるために、最初からその素材の持ち味を最大限に生かしており、結果としてPandaを一つのブランドとして成立させていました。
こんなPandaは様々なユーザーにアピールしました。それは経済的な理由から、本当はもっと高級なクルマが欲しいのに、やむを得ずPandaしか買うことができないからではなく、Pandaに乗ることに積極的な理由を持つユーザーで、私の周囲にはセカンドカーとしてPandaを買う仲間が多くいました。それらはアルファ164のような、ある種神経を使うことの多いクルマを持つユーザーであったり、フェラーリやマゼラーティ、ポルシェといった高級車をファーストカーに持つユーザーで、彼らにとってPandaはそのファーストカーとの対極にある、全く気を使わずに乗ることのでき、しかも貧乏臭さの全くない「癒しのクルマ」であったのです。
そんな初代Pandaも齢を重ね、だんだんとメカニカルな面で全く気を使わずに乗ることができなくなってしまったのですが、最近になってようやく初代Pandaユーザーにとっても二代目のPandaが気になるようになって来ました。その理由は中古車となってこなれてきた値段で、国産軽自動車の新車と勝負できる中古車価格により、ようやく二代目Pandaもその車格と値段のバランスが取れて来たのではないかと思います。

この二代目Pandaは名前こそPandaと名乗ってはいるものの、初代のPandaとは全く似ても似つかないクルマです。初代のデザイナーがジゥジアーロであったことに対して、二代目はFIATの社内デザインですし、初代の持つ安物感は二代目にはありません。ボディも一回り大きくなり、オトナが4名乗車できる室内スペースが確保されています。

最初に二代目Pandaが発表されたときに、初代Pandaのオーナーはそのデザインに眉をひそめたのですが、二代目がPandaと名乗る理由は実際に乗って見ると良く理解することができました。
FIATが二代目のPandaに引き継いだコンセプトは「尖ったところのない、全く気を使わずに乗れるクルマ」という生活車の基本でした。

チョイ乗りで試乗させていただいた二代目Pandaの乗り味は、何の変哲もないものでした。全ての操作系はあくまでも素直で自然な位置にあり、初めて乗ってもコクピットドリルなど必要とせず、オーナーズマニュアルも不要なほどです。エンジンもこれまた自然で、ドライバーの感覚を全く裏切りません。このくらいアクセルを踏めばこのくらいスピードが出るよな・・・と思えばその通りとなり、この位ブレーキを踏めば・・・と思えばちゃんと止まります。唯一気になったのが電動アシストのステアリングくらいで、私自身が慣れていなかったこともあり、最初はステアリングの反発力の変化に戸惑いましたが、こんなものはすぐに慣れてしまうのでしょう。そのステアリングも新しいオーナーによりレザー巻のグリップが太いものに交換されたのですが、それだけでも随分とステアリングフィールは改善されたのではないかと思います。

リアウィンドウの開閉は電動ではありません。今どき軽自動車にも当たり前に装備されているパワーウィンドウすらないのですが、リアのパッセンジャーがハンドルを廻して窓を開ける・・・という運動とボタンを押すという運動の違いに何ほどの価値があるのかと突き詰めれば、手動でも何の問題もないことが分かります。
Pandaの魅力の一つがこの「当たり前」で、全く無理をしていないクルマを日常のアシにすることにより、ドライバーも肩の力が抜け、日常のストレスから解放されるのではないかと思います。
ストレス解消には様々な方法があると思います。スポーツで汗をかくことによってストレスを解消する方にとってスポーツカーはその手段となり得るでしょう。また、静かなバーで美味しい酒を飲むことがストレス解消になる方にとって、どこまでも静かな高級車を運転することはその目的に適ったクルマだと思います。
そしてこのPandaは、当たり前の日常を自然体で過ごすことを欲するドライバーにとって最も適したクルマではないかと思うのですが、そのPandaを今回新たに購入したZAGATORさんにとって、Pandaは当に癒しのクルマで、もう一台の愛車であるAlfa RZとは対極にある実に良い組み合わせだと思います。

そんなPandaの納車に際して何かワンポイントとなるアクセントを考えて・・・との依頼で、私が提案したのがサイドのピンストライプでした。
これは往年のロールス・ロイスやベントレーのボディにハンドペイントで入れられたピンストライプからインスパイアされたものなのですが、上下二本のピンストライプは上が細く、下が太いもので、その二本をサイドのプレスラインを跨いで貼ることにより、カクテルブルーというボディカラーでトールキャビンのPandaを少しシックに見せ、かつボディの上下を分離することにより、デザイン上のアクセントとなっているルーフラインを際立たせようと目論んでのものでした。
サイドショットの写真を送ってもらいPC上で様々な色を試してみたのですが、結局落ち着いたのが少し暗めのシルバーで、色見本からこのシルバーを指定して、COLLEZIONEでその施工をお願いしました。
施工していただいたのはリッコ ファブリカの笹川氏で、たかがストライプと思いきや、その丁寧で緻密な施工はさすがプロの仕事でした。

さて、出来上がりはいかがでしょうか。これは予想外だったのですが、プレスラインを跨ぐことにより上のラインと下のラインの光が当たる角度が変り、光線のあたり具合によって色が変わって見えるという嬉しい誤算もあり、オーナーであるZAGATORさんにも大変気に入っていただきました。
この木綿のTシャツのようなPandaは、何も気を張らず、楽に着こなすことのできるクルマで、スーツにネクタイという日常の服装から着替えるように、ドライブすることによって日常生活で張り詰めて疲れてしまった気持ちをゆっくりとほぐしてくれるのではないかと思います。
木綿のTシャツは洗うたびに味が出てくるものですから、どうかZAGATORさんにはこのPandaを素のままで使い倒していただきたいと思います。
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