それはいつの時代にも存在し続けている熱烈なアルファ・ロメオファンによって「殺された」のですが、私が知る限りではアルファ・ロメオは100年の歴史の中で4度死んでいます(笑)。
最初は戦後にそれまでの高級少量生産車メーカーから量産車メーカーに転進したときで、それまでのアルファ・ロメオオーナーは、「これで自分達の知るアルファ・ロメオは死んだ」と言いました。
そして二度目は国策でナポリに工場を新設してアルファ・スッドを生産することになり、エンブレムから「MILANO」の文字が消されたときで、「アレーゼ以外でもクルマを製造することになったアルファ・ロメオは最早アルファ・ロメオではない」と言われました。
そして、三度目はFIAT傘下に入り、Tipoシャーシーを共有したFF車を生産することになったときで、「FR車ではないアルファ・ロメオなんて最早アルファ・ロメオではない」と言われました。
4度目は、アルファ・ロメオ独自の設計によるV6エンジンの製造が終了し、GMとの技術提携によるエンジンがアルファ159に搭載されたときで、「独自のエンジンを持たないアルファ・ロメオはもはやアルファ・ロメオではない」と言われました。
このように4度も死んだアルファ・ロメオが現在も存在しているのは、それぞれの時代でアルファ・ロメオをアルファ・ロメオたらしめている要素が異なっており、アルファ・ロメオというブランドの何をファンが支持しているかが時代と共に変遷を遂げてきたからなのではと思います。
今回、日本に上陸したTZ3を見たことにより、自分にとってアルファ・ロメオとは一体何だろうと今一度考えて見るきっかけになったのは、このTZ3が紛れもないアルファ・ロメオでありながら、アルファ・ロメオとは全く縁がないクルマであったからに他なりません。
このクルマをご紹介するためにはアルファ・ロメオのTZというモデルについて説明しなければなりません。多くの読者の方にとっては説明なぞ不要かと思いますので、もう一度おさらいという意味で、過去の記事でご紹介したアルファ・ロメオTZ1とTZ2の記事をお読みいただければと思いますが、そもそも最初のTZ3は2010年のヴィラ・デステで行われたコンクール・デレガンスに出品されたクルマです。
デザインを担当したZAGATOはPININFARINAと並び、アルファ・ロメオと最も関係の深いカロッツェリアだと言えます。歴史的にはZAGATOはその軽量化技術と空気力学に優れたデザインにより、コンペティションモデルを得意として来ました。しかし、このTZ3はアルファ・ロメオからのオーダーに基づいて製作されたクルマではなく、オーナーからのオーダーによりコンペティションモデルとして製作されたクルマでした。エンジンはマセラーティのV8エンジンを搭載しており、シャーシーもカーボンファイバーのオリジナルでしたので、アルファ・ロメオのエンジニアはこのTZ3には一切関与していないのです。
アルファ・ロメオの100周年を記念する意味も込めて製作されたこのTZ3が、アルファ・ロメオのパーツや製造技術とは何の関係もないクルマであったことは物議をかもしました。
多くのアルファ・ロメオファンにして見れば、どこから見てもアルファ・ロメオTZ2の流れを汲むデザインでありながら、クルマとして見ると全くアルファ・ロメオではないこのクルマを何と呼ぶべきなのかを断じかねていたのです。
しかし、個人オーナーが自らの意思でオーダーしたのですから、このTZ3に文句をつける筋合いは誰にもなく、オーナーがこれをアルファ・ロメオであると思えば、それで良い話であったのですが、このTZ3はこれだけでは終わらなかったのです。
それはこのデザインの素晴らしさで、アルファ・ロメオファンの多くは現行モデルの貧弱なモデルバリエーションとデザインインパクトの乏しさにうんざりしていました。確かに8C Competizioneは素晴らしいクルマでしたが、このクルマもアルファ・ロメオの現行モデルとは何の関連性もないモデルであったのですから、このTZ3のようなデザインのクルマがアルファ・ロメオと名乗ったとしても、それは許されることであり、このTZ3を支持した理由は、むしろこんなモデルをアルファ・ロメオに造って欲しいというメッセージであったのでしょう。
かくして、TZ3はさらに9台が製造されることとなりました。しかし、当初のTZ3のようなコンペティティブなものではなく、ロードゴーイングモデルとしてもっと「お手軽」に乗ることのできるモデルとして製造されることになったのです。
しかし、残念なことにこのTZ3のデザインを受け止めることのできるシャーシーもエンジンもアルファ・ロメオにはありません。そして選ばれたのが親会社であるフィアットと新しく提携することとなったクライスラーブランドのダッジ・バイパーだったのです。

9台製造されるうちの2号車であるこのTZ3は、南青山の路地の一番奥にひっそりと佇んでいました。恐らく誰も通りすがることはなく、このTZ3を見るために訪れる人しか踏み入れることのないであろうこの空間は、TZ3を展示する場所としては相応しい場所のように思えました。実際に表からちらりと見えたTZ3はアルファ・ロメオを知る人にとっては充分すぎるオーラを放っていました。

TZ3はサイズ的にはダッジ・バイパーと同じなのですが、バイパーと比べると印象的には小さく見えました。
最初に一回りして見たときの印象は・・・「造りが良い!」というもので、最近面倒を見ている同じくZAGATO製造によるAlfa RZ(ES30)の立て付けの悪さ(笑)と比較すると天と地ほどの差があり、このTZ3のボディワークは素晴らしいものでした。尤も、そのお値段と9台という製造ロットを考えるとその全てが手作業で、徹底的にスリ合わせを行うのでしょうから当たり前と言えば当たり前なのかも知れません。

フロントマスクはTZ2のイメージをうまく残しており、2号車特有の装備であるフォグランプも良いアクセントとなっていると思います。

特徴的なのはリアウインドウの処理でフラットサーフェス化された上に、クオーターウインドウから連続してラウンドされた処理はこれからのスポーツモデルのデザインに応用されそうな気がします。

ルーフはABARTHのようなダブルバブルとされており、ヘッドクリアランスの確保にも効果があると思われます。
もう一つのデザイン上の特徴はリアのコーダ・トロンカで、歴代のTZシリーズの特徴を引き継いだものとなっています。それを強調するためにブラックアウトし、さらにリアの視界を確保するために上部をガラス化しているのですが、それでもルームミラーからの後方視界は殆どないと思われます。

その劣悪な後方視界を補うのがサイドミラーで、デザイン上も工夫されていますが、特徴は何よりもその位置と大きさで、このクルマが実際に公道を走行することを前提としていることがうかがわれます。

エンジンルームからの放熱は重要な問題なようで、エンジンフードには左右に大きなスリットが開けられています。しかし、それは単なる機能的なものではなく、ちゃんとデザインされており、中心部の盛り上がりを生かすためのデザインとなっています。

サイドも同様で、スリットの中にマーカーを埋め込む手法は一般的ではありますが、エンジンフードのつなぎ目をうまく利用してデザインされています。そして輝く「Z」のエンブレムがマニアの心をくすぐります。

ホイールはヘアライン仕上げで、これまたTZ2へのオマージュが見て取れます。

マフラーはサイド出しとされています。これもTZ2のイメージを残したかったからだろうと思うのですが、保安基準上では問題があるかも知れません。

インテリアは2号車特有のもので、CoSTUME NATIONALのチーフデザイナーであるエンニョ・カバサ氏のデザインによるものだそうです。他のモデルの内装との違いが分かりませんが、コンベンショナルなデザインながら質感に拘った上質な造りでした。

さて、私自身は何らかの結論を出さなければなりません。
ZAGATOのデザインにより往年のTZシリーズのデザインの延長線上にある、紛れもない現在のTZと言えるこのTZ3。しかし、その中味はバイパーであり、アルファ・ロメオのエンジニアがエンジンをチューンしたわけでもなければ、サスペンスションのセッティングに関与したわけでもないこのTZ3は、アルファ・ロメオの単なる「そっくりさん」なのか、それとも「異母兄弟」なのか・・・。
恐らくその答えはこれからの自動車メーカーがどのような生き残り方をして行くのか・・・という課題と密接に関係しているのではと思います。
内燃機が終焉を迎え、電気、水素・・・と従来の自動車メーカーの持つ技術が意味を持たなくなってくる近い将来において、自動車メーカーの歴史的な独自性を唯一保つことの出来る、すなわち差別化することのできるものが、このブランドでありデザインではないかと思います。
今の私にとってはこのTZ3をアルファ・ロメオと呼ぶには抵抗があります。しかし、実車を前に佇んでいると、街中で見るMiToやGiuliettaよりもアルファ・ロメオらしいのがこのTZ3であることも事実なのです。
恐らくこの答えは皆さんの一人一人の中にあり、その答えがこれからのアルファ・ロメオの行く末を決めることになるのかも知れません。
クリック↓お願いします!


にほんブログ村
テーマ:Alfa Romeo - ジャンル:車・バイク