走ってナンボ

アルファ・ロメオを始めとする「ちょっと旧いイタ車」を一生懸命維持する中での天国と地獄をご紹介します。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Short Story 2  ~自立~

156N001.jpg

「50万円ですか…」

覚悟をしていたとは言え、その金額はあまりに理不尽に思えた。買い替えではなく買い取りだったせいもあるのだろうが、リセールバリューを最優先して選んだ車の金額として考えると、とても納得できる金額ではなかった。

「それでも高い方なんですよ。人気のボディカラーで最上級グレードですし」

査定した営業マンは申し訳なさそうにそう言った。

慎二がその国産車を新車で購入したのが6年前。それまでは中古車しか買うことができなかったが、やっと新車を買える身分になったと自分自身でも感慨にふけったものだった。しかし、新車を買うに当たっては父の助言を受け入れなければならなかった。それは資金援助を受けたためでもあったが、慎二が子供の頃から受け続けた父の価値観の影響も大いにあった。

慎二の父は大手財閥系銀行の支店長だった。全ての物事において慎重で確実性を考え、酒とゴルフを嗜む程度で、一切のギャンブルには手を出さず、宝くじすら買うことのないマジメな男だった。
その父の助言はかつて父自身がそうして来たように、リセールバリューを第一とし、個人の好みをクルマ選びに一切持ち込まないというものだった。
父は借金が嫌いで、自らも一切借金をしなかった。銀行とは貸付金の金利で成り立っているので、借金をしてくれる人がいなければ成り立たない商売であり、一見すると矛盾した考えであったが、個人と会社は別と父は涼しい顔をして答えたものだった。

結婚してようやく新車を買うことにしてローンを組もうと父に相談したときに、ローンを組まずに資金を援助すると申し出たのは父で、そのときの条件がこのリセールバリュー第一というものだった。

慎二はそのクルマに全く思い入れはなかったが、世間で一番人気のあったクルマであったことから、カタログすらろくに見ることなしに、ボディカラーがホワイトの最上級グレードを買うことにした。
街中で同じグレードのそのボディカラーのクルマを多く見かけることも実際に売れていることの証明ではあったのだが、慎二にとっては目障りでしかなかった。
ホワイトのボディカラーが一番色褪せもせず、好き嫌いの影響があまりないことから、リセールバリューを考えるとそれが一番良い選択であることは分かっていたのだが、慎二にはそのクルマにもそのボディカラーにも何の思い入れも湧いては来なかったし、最上級グレードの一体何が最上級なのかすら良く分かってはいなかった。

それまでの中古車選びの方がはるかにエキサイティングで、中古車雑誌を隅々まで読み、実際に何軒も中古車店を廻り、ようやく気に入った一台を見つけたときの喜びはひとしおで、実際に納車されるまでの間は手に入る様々なアクセサリーパーツのカタログを見たり、そのクルマの試乗記が掲載されている自動車雑誌のバックナンバーを古書店で探したりと随分と楽しむことができた。
慎二は、それがたとえ予算がないための妥協の結果であったとしても、その中で自分自身が納得した本当に好きなクルマを買ったからであったことを、こうして新車を買うことになったときに初めて気が付いた。

そして、慎二にとって人生初めての新車は、何の高揚感も感動もなく、慎二が仕事に出かけている平日の昼間に納車された。

しかし、そのクルマは実際に乗ってみると故障もせずに良く走ってくれた。それまでの中古車は故障して何かしら修理を必要としたのだが、さすが新車だと故障はなく、さらにディーラーは3年間故障修理に関しては保障してくれたので、何の心配もなく運転することができた。

そして慎二はクルマを買うという高揚感に続いて、それまでは中古車故の宿命だと思っていた様々な異音や不具合に敏感になりながらクルマを運転するという楽しみも失ったことに気づいた。

156N002.jpg

アルファ156には一目惚れだった。初めて街中でアルファ156を見たときに、世の中にこんなに美しいクルマがあるのかと思った。今乗っている国産車に特に不満な点はなかったが、アルファ156に比べるとその外観は何ともアンバランスで、それまで気にもならなかった自分のクルマの全てが一気に陳腐に見えた。

気がつけばディーラーを訪ねていた。セールスマンから一通りの説明を受けたが上の空だった。そして知らされたのがアルファ156はバックオーダーを抱えており納車は半年後になるということだった。
慎二にはとてもその半年が待てなかった。これから半年もあのハリボテのようなクルマに乗り続けることに我慢が出来るとは思えなかった。
アルファ156に出会うまでは、クルマなんてこれで充分と思っていた初めての新車であった自分のクルマが、あっという間にこれほどまでに色褪せてしまうとは自分自身でも全く理解できなかったのだが、それが正直な気持ちなのでどうしようもなかった。

こうして、慎二はセールスマンの薦めで試乗車であったアルファ156を買うことにした。ボディカラーや仕様など慎二の希望とは異なっていたが、そんなことは気にならなかった。それよりアルファ156であることの方がはるかに重要なことだった。

案の定、父は猛反対した。

父はアルファ・ロメオというイタリア車のことを「知っている」という程度で、壊れる。修理費が高い。リセールバリューが(恐らく)ない。ということから、父の価値観からすると全く受け入れられない選択であった。
慎二がアルファ156について熱く語れば語るほど、父は、「冷静になって良く考えろ」と言うばかりで、それはもはや議論ではなく、車に対すると言うより人生に対する価値観の相違となって、お互いに譲れない状態になってしまった。

慎二は人生で初めてローンを組んだ。

それまでの貯金と今の車の買取り額を合わせても、アルファ156の値段には到底届かなかった。これから生まれてくる二番目の子供のことも考えると、このローンは心の重荷になったが、父の援助は到底期待できなかったし、父とのこの議論は「勝手にしろ」という父と子の喧嘩の「決め台詞」で終止符が打たれていた。

考えて見れば慎二にとってこの決断は父に対して翻した初めての反旗であった。
それまでの慎二は父の助言に従って物事を決めてきた。それは父に盲従していたのではなく、父の助言を自分自身ももっともだと思ったからで、知らず知らずのうちに父の価値観が慎二自身にも刷り込まれていたのかも知れなかった。

しかし、アルファ156は慎二自身も気が付いていなかった父のものとは異なる自分自身の価値観に気づかせてくれた。
慎二にとってアルファ156は最早、今まで乗ってきた車の中の一台ではなく、人生の中で出会うべくして出会った一台であり、初めてのローンも、父との初めての確執も、自分自身が今まで気づくことのなかった父からの自立だったのかも知れない。

こうして手許にやってきたアルファ156に慎二は心酔した。多少の意地もあったのかも知れないが、それまでの国産車では起こりえなかった瑣末なトラブルも気にはならなかったし、かつての中古車のような感覚を研ぎ澄ませて運転するという「癖」もすぐに取り戻すことができた。

アルファ156がやって来てから、しばらく父とはクルマの話を全くしなくなった。




「全然、違うな・・・」



初めてアルファ156の助手席に乗った父は一言だけそう言った。

決して、激しい運転をした訳ではなかったし、どちらかと言うと大人しく運転したつもりだった。
しかし、父の口調は決して批判めいたものでもなければ、その言葉の後に文句が続くようなものではなく、どちらかと言うと、穏やかで、そして少し寂しげな口調だった。




「ああ・・・」




慎二も穏やかにそう応えた。

何となく。本当に何となくではあるが、慎二はこれからは父と親子ではなく、男同士としての話ができるような気がした。

クリック↓お願いします!

にほんブログ村 車ブログ アルファロメオへ
にほんブログ村
スポンサーサイト

テーマ:ひとりごと - ジャンル:車・バイク

コメント

ひとごととは思えない内容ですねぇ。父とはぜんぜん価値観が違いますが父のクルマを勝手に156に乗り換えたこともありましたし(笑)

  • 2012/07/17(火) 12:29:58 |
  • URL |
  • ryuta #-
  • [ 編集]

>ryutaさん
かつての愛車を写真で使わせていただきました。
内容は全てフィクションですが、このストーリーに一番ぴったりなのがアルファ156なんですよね。こうして一目ぼれで買った方は多いんじゃないでしょうか・・・。

  • 2012/07/17(火) 13:38:37 |
  • URL |
  • 510190 #-
  • [ 編集]

本文と全く関係ありませんが、友人の愛車がこの写真と全く同じ色のV6です。
確か、色の名前が見た目と全然違うんですよね。

  • 2012/07/18(水) 06:56:57 |
  • URL |
  • S氏 #-
  • [ 編集]

>Sさん
分かりにくいのですが、アルファ156にはオプションでヌヴォラブルーパールというカラーがありました。これはマジョラカラーの一種で、光線の当たり具合で見え方が変る特殊な塗料でした。
似たようなボディカラーにファンタジアブルーメタリックというのがあり、こちらは通常のメタリックカラーで、さらにコスモブルーというのもあり、ブルー系のボディカラーが充実していましたね。

  • 2012/07/18(水) 18:16:13 |
  • URL |
  • 510190 #-
  • [ 編集]

相変わらず、すばらしい文章力ですね〜。

主人公は若い頃、情熱を持って中古車を捜し、不具合に神経を尖らせ、トラブルを克服しながら維持していく.......
クルマ好きのマニアというか、拘りをもった人物というイメージが浮かんできます。

そういうエンスーっぽい人がいろんな事情があるにせよ、次に買った新車がしょーもないクルマだったというところに若干違和感を感じてしまいました。

リセールバリューの低いイタ車.......
中古を買う人間にとっては逆にありがたいことですね。でもそのためには新車がもっと売れてくれないとね.....


  • 2012/07/19(木) 11:38:54 |
  • URL |
  • なごやまる #-
  • [ 編集]

うちの親父は生前、「イタリア車なんてやめて国産にしろ」とことある毎に言ってきましたが、亡くなってからお袋に聞くと、お袋には「あいつの車道楽には口を挟むな」と伝えていたらしいです。
そのことを思い出しました。

・・・リセールバリュー。
嫌な言葉も思い出しました(爆)

  • 2012/07/19(木) 12:34:56 |
  • URL |
  • pekepeke #-
  • [ 編集]

>なごやまるさん
ありがとうございます。慎二の設定は私自身の原体験がベースになっています。今でこそ新車、中古車は何の意味もありませんが、若い頃は新車コンプレックスがあったんですよね。「いつかは新車・・・」という魅力の前にクルマそのものの魅力が負けた・・・という設定です(笑)。

  • 2012/07/19(木) 20:48:31 |
  • URL |
  • 510190 #-
  • [ 編集]

>pekepekeさん
それは良い話ですね。
きっとお父上hは一番の理解者だったのかも知れませんね。
今回の作品にはもう一つパラレルストーリーを準備しています。いつになるかは分かりませんがご期待下さい。

  • 2012/07/19(木) 20:54:06 |
  • URL |
  • 510190 #-
  • [ 編集]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://ig510190.blog83.fc2.com/tb.php/929-39e6fae1
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。