走ってナンボ

アルファ・ロメオを始めとする「ちょっと旧いイタ車」を一生懸命維持する中での天国と地獄をご紹介します。

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悲劇のDelta ~最終仕上げ~

メカニカルパートのリセットが完了したら、ボディの最終仕上げを再度わたびき自動車で行います。

わたびき自動車では板金と塗装は担当が分かれており、一般的には全ての作業ができるようになるために15年はかかるそうです。自分で出来る仕事と出来ない仕事を見極められるようになるのに5年、そして全ての作業ができるようになってからが本当の修行で、量産工場とは異なり市井の板金塗装工場においては二つとして同じクルマはなく、常に一台一台が異なる状況での作業となるのですから、それを見極めて適切な作業を行うということはやはりマニュアルによる作業ではなく、積み重ねてきた経験を多く必要とするのでしょう。

ボディ塗装とは別に、すでに取り外されている外装パーツは塗装前にそれぞれ単体でチェックされて補修されます。
特にフロントスポイラー(バンパー)はDeltaの場合、複雑な形状をしており、さらに走行中にかかるテンションのためにルーバーの支柱にヒビが入ったり折れたりしてしまっている場合が多いために、これらを入念に補修しておきます。

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こちらはリアアンダースポイラー(バンパー)の塗装準備の例ですが、こうした樹脂パーツは剥離剤で塗装を剥がすだけでなく、サンディングペーパーで研磨することにより表面の状態もチェックされ、そのまま塗装工程に進んで良いかどうかを確認します。この辺りの作業はプラモデルと同様ですが、そのスケールは1/1ですので、同じ作業であっても大変な労力を必要とします(苦笑)。

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細かい樹脂パーツも全て単体で同様の工程により塗装されるのですが、プラモデルの場合は爪楊枝やクリップなどでなるべくパーツ全体に塗装ができるように工夫するのに対して、実車の場合はこうして塗装ブースの中で吊り下げて塗装されます。

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ドアノブは永年の使用で爪による傷などが入ってしまう部分です。これらもちゃんと表面処理されてコーティングされます。

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実はこうした細部は意外と重要で、人間が触るパーツの「使用感」は新車と中古車との差を歴然と見せつけてしまう部分です。わたびき自動車での板金・塗装工においてはこうした部分も見過ごすことなく丁寧にリセットされて行きます。

フロントフードとリアハッチも単体で塗装準備されるのですが、単なる全塗装の場合はこうした作業も行われず、こうした可動部はボディから外されずに隙間をマスキングしただけで塗装されることが多いのです。

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作業工程が前後しますが、ウインドウの下のボディ側は雨水のために錆が発生しやすい箇所です。この錆を放置するとどんどん進行して行きますので、細かく補修をしておきます。

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そしてボディはいよいよ現在の塗装を剥離されて塗装準備に入ります。

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剥離されたボディは金属のベースが露出しますので、ここからの作業は一気に行われます。防錆処理をする前の金属は空気中の湿気だけでも錆の原因となってしまうのです。

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ボディも他のパーツと同様にサーフェイサーを塗装し、磨いて本塗装という工程を経るのですが、そこで使用される道具はプラモデルにも使用されているもので、例えば3M製のスポンジヤスリなどは元々は産業用に開発されたもので、それが今はプラモデルにも使用されるようになったものです。産業用のこうした道具は作業効率とコストを重視され開発されますので、その性能は素晴らしくプロが認めた道具には間違いがありません。

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Deltaの場合はウインドウフレームが黒で塗装されていますので、これらはボディ塗装後にマスキングされて塗装されます。

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ボディの塗装が終わると、単体で塗装された樹脂パーツを取り付けてボディ全体を粗磨き、中磨きを行います。
そこで、クルマはまたクイック・トレーディングに戻されて最終チェックを受けメカニカルパーツの動作チェックやセッティングが行われます。
そして、最後にわたびき自動車で最終の仕上げ磨きを行い、もう一度クイック・トレーディングで試運転を行ってからオーナーに引き渡されることとなります。

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長らくお伝えしてきたLANCIA Deltaのリセットのご説明ですが、全体の工程図を載せておきましょう。以前から述べていますように、協力工場との密接なコラボレーションとコーディネーションがこの一連の作業に必要なことがお分かりいただけるかと思います。

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最後にこの「リセット」という作業の価値について思うところを述べて見たいと思います。

おおよそ中古車を買う目的には二種類あると思います。一つは「安いから」で、この理由が中古車市場の存在意義であることは間違いないと思います。しかしごく少数であるもう一つの理由は、「新車で売ってないから」で、本当に欲しいクルマがすでに製造を終了しており、手に入れるためには中古車として買うしかない場合には、オーナーは中古車であるが故の「痛み」や「ヤレ」を何とかしてリカバリーし、欲しかった新車に近づけたいと願うのではないでしょうか。
その究極がフルレストアなのですが、一方でレストアは「新車の状態に戻す」ことであり、それはそのクルマの当時の技術レベルでの限界をも含めて、その状態を再現することに他なりません。クラッシックカーやヒストリックカーなどは日常の使用を前提としていないために、このレストアというアプローチは理解できますし、そもそも、そのクルマを欲しいと思った動機が日常に使うためのクルマにするためではないのですから、むしろレストアはそのクルマの価値を高めることになるでしょう。

一方でLANCIA Deltaのようなネオ・ヒストリックというジャンルのクルマはその立場が微妙です。それはオーナーの意思により、日常のクルマとして使用することも問題なくできますし、一方で「お宝」として大事に保管されることもあるでしょう。
つまり、リセットとはそのネオ・ヒストリックカーを日常に使用しながら「お宝」とするためのアプローチであり、日常の使用に耐えるためにモディファイされるパーツは慎重に選択され、それが本来のDeltaの外観や走行フィールを損なわないものに限られています。日常の使用に耐えるようにするために結果としてDeltaでなくなってしまっては何の意味もなく、それはプリウスにDeltaのボディを被せることと同義となってしまいます。

そのためのコストは決して安くはありません。世に流通しているDeltaの中古車価格と比較すれば勝負にはならないでしょう。
現在の中古車実勢価格はこの記事を書いている現在で、最安値のHF Integlare 16Vの65万円から最高値のHF Integrale Evoluzione Ⅱ Collezione(最終限定モデル)の545万円!までと多岐に亘っていますが、平均相場は254万円で、最終モデルでも製造から12年が経過していることを思うと、その値段は高値と言えるでしょう。
一方で、この製造から12年という年月はそれが「奇跡」と言われる未登録の新車であっても、確実に様々な部品を劣化させてしまうことは、今回の一連の記事をお読みいただければご理解いただけると思います。

悲しいことに全ての物質はそれが人間の手で加工された時点から劣化変質して行きます。変質そのものがその目的であるワインや醤油などを「熟成」と呼んでいるだけで、加工された時点での性質がその加工の目的である自動車のような場合は新車として工場を出た時点からこの劣化の時計の針は回り始めるのです。

リセットはその時計の針を元に戻すだけでなく、さらにその性能を現代の技術を使って製造当時には「あり得ない」クルマを造る「オーパーツ」とも言えるクルマにする作業です。

しかし、一方でこのリセットはどのクルマにもできることではありません。
ベース車両を含めた部品供給の問題。新車製造ラインの技術者以上にそのクルマのことを知り尽くしたメカニックの存在。卓越した個々の職人技によってそれらを支えるインフラの問題。そして最終的にはその価値を認める市場(顧客)の問題。
これらが全て揃わなければリセット作業は成り立ちません。仮に市場そのものがなく、オーナーの意向により一台のみのリセットであったとしても、それ以外の要素がなければやはりリセットは成り立ちません。そういった意味ではコストの問題を別にすれば、リセットの方がレストアよりもずっと難しいと言えるでしょう。
そして、リセット作業は未来永劫できるものではありません。上記の要素が欠けてしまったときにはリセットそのものは不可能となってしまうのです。

クイック・トレーディングによるとこのリセット車の価格はそのベース車両の程度と内装を含めてどこまでリセットするかにもよるそうなのですが、全体で車両価格も含めて400万円~500万円とのことです。
絶対的な価格は決して安くはない金額です。しかし、これまでお伝えして来た作業の内容を見ると、それが標準化された作業となっていることにより、一台限りの作業に比べるとコストが軽減されていることが良く分かります。
なぜならLANCIA Deltaの新車当時の価格は、HF Integlare 16Vが520万円、HF Integlare Evoluzione Iが545.5万円、そしてHF Integlare Evoluzione Ⅱが565万円だったのです。
新車価格と比較すれば、このリセットされたDeltaの価格が決して高くはないことが分かります。

もし、私がLANCIA Deltaに惚れ込んでどうしても欲しいと思うなら、新車未登録の「奇跡」のDeltaを500万円で買うのではなく、間違いなくリセットDeltaを買うでしょう。

そしてこのデタラメな事故修復を受けた「悲劇のDelta」はこのリセット作業のおかげで蘇ることができました。さらにこのリセット作業中に、このDeltaの居場所であった宮城は東日本大震災に見舞われました。仮にリセットに出されずにそのまま宮城に留まっていたならば何らかの被害を受けていたかもしれません。

「悲劇のDelta」は結果として「奇跡のDelta」となったのです。

最後になりましたが、一連の記事を書くことを快く承諾いただいたオーナーのY氏、多くの資料写真を提供いただき、素人の私が分からないことが出るたびに辛抱強くご説明いただいたクイック・トレーディング様及びわたびき自動車工業様に感謝の意を述べさせていただきます。

本当に勉強になりました。ありがとうございます。そして、これからも一台でも多くの「奇跡」を生み出していただけることを願って止みません。

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テーマ:イタリア車 - ジャンル:車・バイク

コメント

この内容で考えると
”全体で車両価格も含めて400万円~500万円”
これは安いと思います。
出来上がったクルマは新車以上のクオリティですから、新車当時の価格と比べても高くは無い。
事故修理したCAEと単純に比べてはいけないと思いますが、アレ部分的な修理でこの倍かかってますよ。

ところでこの工程表はだれが作ってるんですか?

  • 2012/03/18(日) 06:39:59 |
  • URL |
  • S氏 #-
  • [ 編集]

>Sさん
ストラトスはワンオフでFRPの型から製作したのですから止むを得ないでしょうね(笑)。
一方でDeltaのリセットは標準作業として定型化されており、そのために作業工程や作業時間を短縮化することによりコストを下げることができているとのことです。
フローチャートはクイック・トレーディングから頂いたものをもう少し皆さんに分かりやすいように加筆したものです。定型化されていることがフローからもお分かりいただけるかと思います。

  • 2012/03/18(日) 13:11:56 |
  • URL |
  • 510190 #-
  • [ 編集]

新車以上のコンディションのデルタが今400万で買えると思ったら安いですね!いや~欲しくなりました(笑)はっきり言って未だ異様な値段のEVO2やコレチの中古を買うぐらいなら、これをお願いしたほうが全然いいですよね。一度は買いかけたデルタですから、これをみたらやばいぐらい欲しいです。。。

  • 2012/03/19(月) 22:26:44 |
  • URL |
  • masaking #-
  • [ 編集]

>masakingさん
新車で買えなかったから中古を・・・という方を別にして、本当にDeltaが欲しいと思っている方にとって、こんなプログラムがあるのは素晴らしいことだと思います。クイック・トレーディングではこのリセットDeltaをもっと良く理解してもらうために、デモ車両を準備しているようですので、準備ができたら東京に遊びに来ませんか?リセットDeltaを一度乗り倒して見てください。必ず、次期戦闘機FXの最有力候補になると思いますよ。

  • 2012/03/19(月) 22:44:23 |
  • URL |
  • 510190 #-
  • [ 編集]

510さん
DELTAを選択するなら、このリセットでしょうね。正直、寺島社長や皆様の熱意に感服致しました。これは、良いプログラムですよね。他の車種でもできないかな?(笑)個体数が問題ですかね。。。
次なる展開を楽しみにしています。

  • 2012/03/20(火) 09:08:40 |
  • URL |
  • ZAGATOR #jhHw6g8s
  • [ 編集]

>ZAGATORさん
他のクルマも・・・という希望(欲望)はあるのですが、ショップがビジネスとして行うには様々な要素があり、難しい面もあるのでしょうね。クイック・トレーディングにとってはDeltaにノウハウがあったのでできたことで、そこでも出来ることではないと思います。個人的にはDeltaに続くリセットプログラム展開を期待してるんですが(笑)

  • 2012/03/20(火) 13:58:59 |
  • URL |
  • 510190 #-
  • [ 編集]

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