特にこれから模型を造ろうという方にとっての最大の障害はエアブラシではないかと思います。こと塗装に関しては私も子供の頃は筆塗りで仕上げていましたし、近年はエアブラシによる塗装に関しては賛否両論あり、誰が作っても同じような個性のない作品になってしまうと敢えてエアブラシを使用しないモデラーもいるようです。
今回は敢えてエアブラシを使用せずに筆塗りでプラモデルを作ってみたいと思います。またご紹介してきた数々の秘密兵器?も極力使用せずに、なるべく普通の工具のみを使用してどこまで造れるかやってみたいと思います。

用意したキットは1/72スケールの零戦(正式には零式艦上戦闘機21型)です。なぜクルマのモデルではないかというと、クルマの場合はボディ表面の塗装を行うには残念ながらスプレー塗装が一番優れているのですが、飛行機のモデルはその表現方法のバリエーションが多いため、筆塗りの塗装で造り手の個性を表現できるのです。
しかし正直言って零戦を造るのは40年ぶりで(苦笑)、しかも今回造るのはイギリスのAIRFIXというメーカーのものです。昔から零戦は日本各社のメーカーが一度はキット化した一般的な機種で、残念ながら零戦に関して言えば日本製ののキットが一番優れているのは当たり前かも知れません。
ところがこのAIRFIX製の零戦を模型屋で見たときにビックリしてしまったのです。それは「新金型」ということでランナーについたままのパーツにスジ掘りのみにスミ入れをしてディスプレイされており、その機体表面の表現センスが素晴らしかったのです。
日本の模型メーカーにとって零戦のモデルは「鉄板」で(笑)、その時代の最新の考証に基づいて、如何にライバルメーカーのものと差別化をするかに苦心して造られているのですが、一方で力が入りすぎているというか今さらというか、頑張りすぎているところがどうも苦手だったのですが、このAIRFIX社のキットは他国の機種ということもあり肩の力が抜けおり、自然体で零戦を表現しているところに好感が持てたのです。
AIRFIX社はプラモデルメーカーの中でも老舗で、私が子供の頃は日本製のキットと比較すると数段優れており、「舶来上等」という価値観を身をもって体感したものでした。現在は世界のトップメーカーである田宮模型も、「いつかAIRFIX社のような模型メーカーになりたい」と目標にしたほどのメーカーでした。
当時のイギリスはAIRFIX、FROG、MATCHBOXと多くのプラモデルメーカーが存在したのですが、時代の流れの中でその殆どは活動を止めてしまいました。これらのメーカーの中でもAIRFIX社は1939年創業という歴史のあるメーカーで戦後にプラスチックモデルに参入し、業績を伸ばしたのですが1981年に倒産し、現在は鉄道模型のメーカーであるHornby社の傘下で再生しています。
以前は過去のモデルを再販していたのですが、最近は積極的に新しいモデルを開発するようになり、この零戦も新たに開発されたもので、新しい金型で新発売されたものです。加えて素晴らしいのがそのボックスアートで、敵機役がP-47という考証ミス(太平洋戦線には配備されていない)を除けば、これだけでも随分と得をしているキットだと思います。


零戦の中でも21型という初期の機体をモデル化しているのですが、このキットの魅力は一般的に再現されるであろう真珠湾攻撃に参加した空母艦載機のデカールではなく、箱書の説明では201空所属と書いてありますが(苦笑)、実際は筑波航空隊所属機というおそらく日本のメーカーでは見向きもしないであろうマイナー?なカラーリングをチョイスしているのです。
しかもそのデカールはカルトグラフ製で、機体の細部の注意書までデカールで再現されているという贅沢なキットでありながら、昨今の円高のお陰でお値段は630円という信じがたい爆安価格なのです。
これが外国人の企画センスなのか日本製のキットとの差別化なのかは定かではありませんが、最近は別売りのデカールも販売されていますので、どうしてもメジャーな機体を再現したければこうした市販のデカールを使用することもできるでしょう。しかし、ここはAIRFIX社の企画センスに敬意を表して、付属するデカールの仕様で仕上げてみたいと思います。
この筑波航空隊は戦闘機専修搭乗員の教育を推進するため、戦闘機に搭乗するまでの訓練の最終過程を担当した訓練部隊で、主に予科練・操縦訓練生の中から戦闘機操縦の特性がある者を選抜し、実際の戦闘機を用いた最終訓練を行っていました。使用された戦闘機は解隊された大分海軍航空隊から移管し使用していたようですが、最新機種は前線に投入されていたためにこの零戦21型のように、開戦初期に活躍し、前線部隊が新型に機種改編されて余った機体が割り当てられたのであろうと思います。
訓練機であるこの機体には、地上から無電で指示ができるように機体下面に機体番号が書かれており、恐らく地上から機番を見ながら操縦指示をしたのでしょう。
筑波航空隊はこうして前線に戦闘機搭乗員を送り出す役割とともに、後に本土防空という実戦任務も行うようになります。操縦訓練を行っていた教官は同時に防空戦闘にも参加することとなったのですが、最後には特攻作戦に参加し、筑波航空隊所属であった教官の64名のうち55名が特攻により惨禍してしまうという悲惨な末路を迎えることとなります。
ちなみに筑波航空隊の跡は比較的多く残っており、飛行場があった跡地に建てられた県立友部病院の管理棟は司令部をそのまま転用しており、隊門やグラウンドもそのまま友部病院が活用しているそうですので、機会があれば一度訪れてみたいと思います。
模型を単に造るだけでなく、こうした背景を調べて見るのもモチベーション維持には重要で、新たに発見することも多くあります。例えばこの調査からこの零戦21型は前線から戻ってきた使い込まれた機体であったことが分かりましたので、ピカピカの新造機ではなく少しくたびれた感じを再現できたらと思います。

パーツ割はこんな感じで極平均的なものですが、それでも幾つか拘っている部分はあります。まずはエンジンで零戦に搭載されていた栄12型エンジンが素晴らしいモールドで再現されています。
次にこの零戦21型の特徴である翼端の折り畳み部分が伸ばした状態と折り畳んだ状態の両方を選べるようになっています。これは航空母艦に搭載することを前提とした設計で、格納庫内でのスペース効率を考えてのことなのですが、日本のメーカーであればともかく、よくイギリスのメーカーがこの設計をしたものだと思います。

チェックしているときに発見したのがプロペラの破損でした。輸入キットには良くあるのですが、輸送中の破損だろうと思われます。昔のAIRFIX社の1/72スケールのキットは箱にすら入っておらず、ビニール袋にパーツが入っているだけでしたので細かなパーツの破損などは当たり前で、子供だった私は交換してくれ…と言えずに泣き寝入りをしたものでした。今回は修復できるのでこのまま造ろうと思います。
外国製キットのもう一つの特徴は離型剤で、日本のモデルに比べると金型からパーツを抜くための油が表面に多く残っています。もちろんメーカーによって多少の差はありますが中性洗剤で念入りに洗っておかないと塗装をするときに塗料をはじいてしまいます。私は中性洗剤で洗いましたが、やはり不充分で塗装前に再度エナメルシンナーを使って脱脂しなければなりませんでした。
飛行機の模型にはポイントが幾つかありますが、そのうちの一番重要なのが機体全体のバランスです。クルマの模型はほぼ実車と同じ部品構成となっています。特にボディはほとんどの模型が一体成型ですので問題はないのですが、飛行機の模型の場合は実際の飛行機の構造とは全く異なっています。模型の胴体は左右に分割されて成型されているのが一般的ですが、実機の場合は胴体は最初から丸い状態で製造されています。また主翼も同様で、胴体を貫いた主桁を基にリブと呼ばれる構造材を組み合わせた上に外板を張っていくのですが、模型の場合は一体でモールドされています。ですので、「仮組み」と呼ばれる主翼、尾翼、胴体といったメインのパーツをまずランナーから切り離し、最初に組み合わせて見るのです。そうすることにより全体のバランスや本来あるはずのない部品同士の隙間などをチェックし、その後の組み立ての際の修正箇所を予めチェックしておくことができます。

飛行機のモデルで重要なのが左右のシンメトリックで、もしパーツ割で左右の主翼が別々になっていると、その取り付けに際しては左右の角度を揃えることに注意をしなければなりません。そして機種にもよりますが主翼は胴体に水平に取り付けられているのではなく、機種ごとに固有の上反角度を持っており、厳密にではないにせよ、その角度も揃えなければ出来上がりが不細工なものとなってしまうのです。このキットのパーツ割は良く考えて設計されており、この飛行機モデルの佇まいを決める主翼の上反角の角度が狂わないように主翼下部パーツは左右が繋がった状態で成型されています。
また、上下貼り合わせ式の主翼構造だと翼端のエッジが二重になってしまい見た目が悪いのですが、このキットは主翼後端を上翼パーツに一体で成型することによりエッジをシャープにしています。

しかし胴体と左右主翼上部パーツとの間に隙間ができてしまうようなので、この部分は実際に組み立てる際には修正が必要でしょう。一方で胴体の組み合わせは良好ですので左右の継ぎ目を消すのは造作ないでしょう。総じて言えば組み立てやすいパーツ割でよく考えてあるキットだと思います。

全体の形状はどこから見ても零戦で(笑)、大きくバランスを崩している部分はなさそうです。昔のキットは国内外産を問わず、飛行機には見えるもののその機種には程遠いものがあったのですが、さすがに現在はそんなことはありません。もちろん細かいことを言えばキリがないのでしょうし、特に飛行機のモデラーはその辺りにウルサイ方が多く、○○型のアンテナは・・・とか、この部分の絞込みはもっと・・・とか実際の考証と個人の主観とが入り混じった批評をする方が多いのですが、私自身は余程のことがない限り、細かいことにはコダワラないようにしています。特に飛行機のモデルに関しては、それに拘って資料と見比べながら修正に修正を重ねて完成に時間がかかって疲れてしまうよりは、そんなことを考えずに組み上げてしまう方が楽しいと思っています。
という考えですので、零戦21型のここは・・・など細かい考証はせずに、まずはこのAIRFIX製のキットの良い部分を強調して組み立ててみることにしましょう。
クリック↓お願いします!


にほんブログ村