走ってナンボ

アルファ・ロメオを始めとする「ちょっと旧いイタ車」を一生懸命維持する中での天国と地獄をご紹介します。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

永遠の0(ゼロ)

何気なく立ち寄った書店で平積みになっているこの本を見つけたときに、その題名からは内容が想像できず、単に本屋のPOPに惹かれて購入したのですが、読み始めてすぐにこの作者が只者ではないことが分かりました。

永遠のゼロ2

この小説の主人公である佐伯健太郎は秀才と言われながら四年連続で司法試験に失敗し、人生の目的を失いかけた26歳の若者です。そんな彼にアルバイトをもちかけてきたのが彼の姉であるフリーライターの慶子で、そのアルバイトとは彼らの祖父である宮部久蔵のことを調査するというものでした。
彼らの祖母の死後にそれまでずっと実の祖父だと思っていた人から、実は祖母とは再婚で、自分たちと血の繋がった本当の祖父はその宮部久蔵であると聞かされ、彼は海軍の飛行士で終戦の数日前に神風特攻隊の一員として出撃し、帰らぬ人となったことを教えられるのです。
当初の姉の目論見はこの調査を通じて神風特攻隊員のノンフィクションを手がけることだったのですが、彼ら姉弟にとって自分たちのルーツ探しとも言える宮部久蔵に関する調査は、一方で戦争を全く知らない若者が太平洋戦争と日本人を考えるきっかけにもなって行くのです。そして取材を通じて少しづつ宮部久蔵の人間像と彼の最期の秘密が解き明かされて行きます。そして二人は衝撃の真実を知ることとなるのです。

作者の百田尚樹氏は、関西人であれば恐らく一度は見たことがあるであろう深夜のTV番組、「探偵ナイトスクープ」を手がけた放送作家で、どちらかというとTVの世界に生きてきた方です。その氏が初めて小説家として書き下ろしたのがこの作品なのですが、ぐいぐいとフィナーレに向かって盛り上げていくストーリー展開はさすがに放送作家…と唸らせるものがある一方で、緻密な調査と卓越した見識をもって書かれた太平洋戦争と日本人の精神文化に関する記述は、決してそれが目新しいものではありませんが分かりやすく記述されており、ストーリー展開の邪魔をせずに自然に読み進むことができます。

特攻という言葉を知っていても、現代に生きる私たちがその本質を理解することはとても難しいことだと思います。イスラム原理主義者がアメリカの貿易センタービルに、ハイジャックした旅客機ごと突入した行為を「カミカゼ」と表現した欧米のマスコミに対して違和感を覚えた日本人は多かったのではと思いますし、一方で違和感すら覚えない日本人にとっては「カミカゼ」も「カラオケ」と同じく英語になった日本語の一つでしかないのかも知れません。

しかし作者は、死を徹底的に怖れ、生きて祖母と子供である彼らの母の許に帰るために、卓越した操縦技術を身につけて太平洋戦争の激戦を戦い抜いた宮部を通じて、当時の若いパイロットたちが決して狂信的なテロリストなどではなく、現代の私たちと同じ死生観を持っていたことを描こうとしています。

また、作者は主人公の姉に当時の日本のエリート軍人たちの本質を語らせているのですが、そのくだりは実に興味深いので少しご紹介しましょう。

(前略)

「強気というよりも、無謀というか、命知らずの作戦をいっぱいとっているのよね。(中略)
でもね。ここで忘れちゃいけないのは、これらの作戦を考えた大本営や軍令部の人たちにとっては、自分が死ぬ心配が一切ない作戦だったことよ」

「ところが、自分が前線の指揮官になっていて、自分が死ぬ可能性がある時は、逆にものすごく弱気になる。勝ち戦でも、反撃を怖れて、すぐに退くのよ」

「将官クラスは、海軍兵学校を出た優秀な士官の中から更に選抜されて海軍大学校出たエリートというわけね。(中略)個々の戦いを調べていくと、どうやって敵を撃ち破るかではなくて、いかにして大きなミスをしないようにするかということを第一に考えて戦っている気がしてならないの。」


そこには当時の日米の軍人の評価制度の違いにまで及ぶリサーチとその行動心理を考察した記述があり、本当に驚かされます。
この作品の後に続く彼の作品は戦争とは全く関係のない題材の作品ですので、そもそも彼が何故このような設定で小説を書こうと考えたのかは分かりませんが、少なくともこの小説を通じて書きたかったのは、単なる壮大な人間ロマンだけではなく、太平洋戦争の敗戦を境に日本人が変わったのではなく、日本人の本質が太平洋戦争を敗戦に至るまで続けさせ、その本質は現在に至るまで何ほども変わってはいないことを書きたかったのではないでしょうか。

今年の2月に他界した私の父は太平洋戦争中に学徒兵として大学を休学して兵役に服しました。この小説にも出てきますが、当時の大学生は現在と異なりエリートとして社会的にも扱われて徴兵を免除されていたのですが、戦況の悪化に伴い理工学部の学生以外は兵役に服することとなったのです。
「雨の神宮外苑の行進」というニュース映像で残されている悲壮感が漂う大学生の出陣式は有名ですが、父の徴兵はその翌年で特に華々しいセレモニーはなかったそうです。
父は陸軍に徴兵されたのですが、その当時はもはや父を外地へ送る輸送船もなく、高知の海岸で米軍上陸に備えてタコツボを掘る毎日であったそうですが、一方で海軍に徴兵された同級生は人間魚雷「回天」と呼ばれる特攻兵器に乗って戦死したり、沖縄に片道の燃料だけで突入した戦艦大和に乗り組んで船と運命を共にしたりしたそうです。
父によると彼らが狂信的に日本の勝利を信じて戦ったのかというと決してそんなことはなく、純粋に皇国日本が掲げた大東亜共栄という欧米人のアジア植民地支配からの脱却という理想を信じる一方で、どんなに大本営とマスコミが「負け戦」を「勝ち戦」と誤魔化したとしても戦局が日本の敗北に向かっていることは充分理解していたそうです。
しかし、皆が「白」という中で一人で「黒」という勇気がなかっただけで、それが日本人の典型的な弱さではなかっただろうかと思うのです。
父は負け戦と知りつつ、それで勝てるとは思わずに砂浜にタコツボを掘り続け、それで上陸してくる敵の戦車を防げるワケはないことを知りながら、竹槍を砂浜に挿し続けました。それはこの期に及んで自分たちにできることはそれしかなかったからやったことで、父もまた無駄だから止めようと声を上げる勇気が無かった日本人の一人であったのです。

しかし、宮部は特攻隊に志願を強要されたときに、志願しない勇気を持っていました。そして同時に生き抜くという戦い方を選択する勇気と実際にその技量を持ち合わせていたからこそ、最後まで生きて戦い抜くことができたのですが、そんな彼がなぜ最期は特攻隊として敵艦に突入することになったのかは、この小説を実際に読んだ方にだけ明かされる結末としておきましょう。

もし生前に父がこの小説を読む機会があれば何と言ったでしょうか…。

クリック↓お願いします!

にほんブログ村 車ブログ アルファロメオへ
にほんブログ村
スポンサーサイト

テーマ:ブックレビュー - ジャンル:小説・文学

コメント

初めて投稿させていただきます。兵庫で絶滅危惧種?に指定されたALFA145に乗っております。いつも興味深く拝見しています。
今回は紹介記事を読んですぐに本屋へ向かいひと晩で一気に読みました。知覧の特攻会館などで特攻兵の遺書を読みましたが彼らは本当に死ぬことが怖くはなかったのか、肉親や恋人と別れることに悔いはなかったのかとずっと考えていました。本当の気持ちを知るすべはありませんが、これを読んで少しは自分を納得させることができました。宮部さんのような気持ちを持って戦った方がいらっしゃったことを信じます。

またこれからの時代を生きていくうえで宮部さんの気持ちを忘れずにいたいと思います。ありがとうございました。

  • 2010/06/26(土) 22:04:16 |
  • URL |
  • norizo #-
  • [ 編集]

>norizoさん
初めまして。どういうワケかアルファ145は身近にありながらネタにしたことがありませんでした。機会があれば是非取り上げたいと思っています。
私のつたない書評でもこうしてお読みいただけるとは感激しています。
もちろんこれは小説ですが、仰るように宮部久蔵のような兵士がいたとすればそれこそが日本人の誇りとなるような気がします。
できれば若い方にも読んでもらいたいですね。

TBさせていただきました~
お父様のお話、興味深く読ませて頂きました。
特攻隊強制志願にNOといえる特攻隊員、という小説ははじめてで新鮮でした。

  • 2010/10/18(月) 13:18:16 |
  • URL |
  • カワベ #d3xRQPUk
  • [ 編集]

はじめまして。私もこの本は読みました。フィクションですが、最後の本当の祖父と義理の祖父の関係を知った時は涙がでそうになりました。いい本だと思います。

>古本買取の芝商店さま
本のプロ!の方も読まれているのですね。今年も8月15日が近づくにつれ本屋の店頭でも平積みで見かけるようになりました。それだけ読み応えのある内容なのでしょうね。

  • 2011/08/09(火) 20:52:28 |
  • URL |
  • 510190 #-
  • [ 編集]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://ig510190.blog83.fc2.com/tb.php/770-55fda7d7
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

百田尚樹「永遠の0(ゼロ)」

今日、徳島の祖父の家に帰ってきた。 お盆休みなので、本四海峡バスに乗るのに苦労した。 終戦記念日が近づくにつれて、戦争関連番組が増...

  • 2010/08/13(金) 22:06:38 |
  • タヌキおやじの日々の生活

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。