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走ってナンボ

アルファ・ロメオを始めとする「ちょっと旧いイタ車」を一生懸命維持する中での天国と地獄をご紹介します。

Alfa RZの初期化~その五~

ご存知のようにアルファ・ロメオの一連の市販モデルであるアルフェッタからアルファ75まではトランスアクスルという独特のパワートレインを採用していました。このレイアウトはグランプリカーであったアルフェッタ(小さなアルファ)と呼ばれたTipo159(158)に由来します。

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トランスアクスルとはフロントにエンジンを配置しながら車体の重量配分をミッドシップ並の50:50に近づけようとするレイアウトで、一般的にはエンジンと一体とされたミッションケースをエンジンから切り離し、リアのデファレンシャルギアと連結して配置することにより重量を分散する配置方法です。
このレイアウトはグランプリマシーンであるTipo159に採用され、その運動性能の向上に寄与したのですが、一方で良いことばかりではなく、ごく限られた市販車にしか採用されなかったのは、製造コストや振動、そしてメンテナンス性に問題があったためで、トランスアクスルを採用したクルマに乗るということはある意味でとても贅沢なことだと思います。

以前にもご紹介したのですが、アルファ・ロメオが市販車に採用したトランスアクスルをアルファ75を例に見て見ましょう。

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エンジンの直後に接続されているクラッチとミッションケースが、リアにデファレンシャルギアと一体となって配置されていることがお分かりいただけるかと思います。
そもそも1972年に発表されたアルフェッタセダンに何故、このトランスアクスル方式が採用されたのかと言うと、ライバルを凌駕するスポーツセダンとしての運動性を手に入れたかったことに加えて、エンジンの後方にミッションケースがないことによる室内空間の確保で、結果としてライバルの同サイズ車に比較すると大きな室内空間と、素晴らしいハンドリングを得たアルフェッタは、スポーツセダンとして今尚、伝説的な評価を受けています。

しかし一方で前述したように、このトランスアクスルには問題もあり、製造コストの問題は「買ってしまった」オーナーには関係ないことではありますが(苦笑)、それ以外の点はオーナーにとっては由々しき問題で、結果としてアルファ・ロメオのトランスアクスル方式モデルの生存率を悪化させる原因となっているのです。

トランスアクスル方式であるとクランクシャフトの回転数はギアで減速されずに、ボディ下のプロペラシャフトによりリアまで伝達されることとなります。すなわち、エンジン(クランクシャフト)が5000回転で廻っているときにはプロペラシャフトも5000回転で廻っているということで、グランプリカーであればともかく、乗用車であればその振動や音を抑えなければとても乗れたものではありません。
アルファ・ロメオはその対策として、プロペラシャフトの前後と中間にカップリングと呼ばれるゴム製の緩衝材を挟み込むことにより防振と制音対策としました。

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上の部品図の6番、5番、15番がそのカップリングなのですが、この緩衝材は走行距離だけでなく、ゴム製ということから経年劣化でも交換を必要とします。またエンジンマウントが劣化することによりエンジンの位置が下がると、プロペラシャフトが真っ直ぐでなくなってしまい、それが原因となってカップリングを傷める原因にもなります。
そしてその交換のためにはプロペラシャフトを外さなければならず、オーナーはその高額なメンテナンスコストを負担しなければならないのです。
そしてカップリングが痛んでくるとプロペラシャフトは異常振動を始め、それは不快な音や振動をボディに伝えて来ます。またこの異常振動はプロペラシャフトの位置を固定しているサポートベアリング(部品図の2番)の寿命も縮めることとなります。

さらにカップリングの劣化はクラッチ側にも影響を与えます。
エンジンと等速で回転するプロペラシャフトの振動を抑えることができなくなると、その振動はクラッチ側のシャフトにも伝わることとなります。そしてクラッチ側のベアリングの寿命を縮めてしまいます。

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上の部品図の8番、10番、19番がそのベアリングなのですが、これらのベアリングが痛むと、同様に不快な振動と音を発生します。

どんなクルマであれ、オーナーにとってクルマから発生する音と振動を見分ける(聞き分ける)ことはメンテナンスにとってとても重要なことだと思います。

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私が管理?することになった友人のアルファRZはアルファ75のエンジンとシャーシーを使って造られたクルマなのですが、最初にオーナーから連絡を受けたのはこの音と振動についてでした。
私自身も試乗をして確認したのですが、最初に確認できたのは1500回転付近で聞こえてくる異常な音と振動でした。しかし、クラッチを切ると聞こえなくなることから、プロペラシャフトに関係する問題ではなく、クラッチを繋いでギアボックス側に回転を伝達することにより発生する問題であることが分かり、これはクラッチベアリングの磨耗であると想像できました。また、注意して見ると(聞くと)音と振動は1500回転付近で発生するのではなく、全回転域で発生していることが分かりました。1500回転というのは共振のために分かりやすかっただけで、回転が上がることにより振動周波数が高くなり、感じにくくなっているだけだったのです。

しかし、このクラッチベアリングは単独で磨耗することはあり得ません。前述したように、クラッチベアリングが磨耗するにはカップリングの磨耗が影響しているはずで、早晩、カップリングからの異音(プロペラシャフトの偏芯)が聞こえてくるはずです。
この時点で主治医であるクイック・トレーディングとも相談し、部品の手配を開始することにしたのは、異音と振動の原因が複合要因であるためと、メンテナンスの手間を考えてのことで、プロペラシャフトを外さなければならないメンテナンスは当然カップリングも外すこととなり、経年劣化して痛んでいるであろうカップリングは外すことにより一気に砕けてしまう可能性が高かったからなのですが、この予想は見事に的中してしまい、ついには走行中にカップリングからも異音がするようになってしまいました(苦笑)。

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実は、オーナーにはクラッチセットとカップリングを前もって購入して保管してもらっていました。これらの部品は入手難となっており、見つけたときに買っておかないと手に入らない可能性があったことと、アルファRZに限らず、トランスアクスル系のアルファ・ロメオを購入した場合は初期化として必ず交換を必要とする部品であったからなのですが、これほど早く交換することになるとは思いませんでした(笑)。

上の部品図はクラッチ部分ですが、青で囲んだ部分はクラッチシャフトです。実は純正のクラッチキットはこのシャフトが付属しているのですが、OEMのクラッチキットにはこのシャフトがありません。音や振動が出る前に交換するのであればまだしも、今回のようにプロペラシャフトが原因で交換する場合はこのシャフトも傷んでいる可能性が高く、少々値段が高くてもシャフト付のクラッチキットを購入しておくべきでしょう。
オーナーにはもちろんこのシャフト付のクラッチキットを購入してもらっていましたので、今回は良い機会ですのでクラッチも併せて交換することとしました。
これも今後のメンテナンスコストを低減するための予防整備ですが、同時にクラッチレリーズシリンダーとホースも交換することとしました。
今回は部品図の赤丸の部品を手配することとしましたが、「あるところにはある」もので、日本国内では入手が難しいこれらの部品も世界中を探せば手に入れることができました。

メンテナンス・ガレージに整備を依頼する際に、「音がする」という表現だけで預ける方がいますが、実はオーナー以上にそのクルマのことを知っているメカニックはいないと思います。
自分の愛車の構造をある程度理解していると、異常を感じたときに、それがどの状況で起こるのかやどんな音や振動がどこからするのかを色々と試してみて分析することができ、それをメカニックに伝えることにより、問題部分の特定を早くすることができたり、しばらく乗っていても大丈夫なのか、これ以上乗らないほうが良いのかなどアドバイスを受けることができるのです。
もちろん整備そのものに関する知識や技能は別ですが、通常の状態と異常な状態との違いを一番知っているのはオーナーで、病院で受診する際に単に「お腹が痛い」では医者も診断のし様がないのと同じで、少しでも的確に状況を伝えることにより、メンテナンスの時間を短縮したり、コストを低減することができるのです。

部品が届いたらメンテナンスを始めますが、実は今回の整備も初期化の一環で、残る初期化はタイミングベルト関連のみとなりました。
トランスアクスル系のアルファ・ロメオの欠点がこのメンテナンスの問題で、その手間とコストに音を上げて手放してしまったオーナーはともかく、今尚、この「地獄クルマ」を愛して止まないオーナーは、完調時のトランスアクスルの美点を知り尽くしている方々で、それがために維持していると言っても過言ではないでしょう。
このアルファRZのオーナーも今回のメンテナンスが終わって乗り出せば、このトランスアクスル症候群に罹患するかも知れません(笑)。

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木綿のTシャツ

メーカー名を超えてそのモデルが一つのブランドとして確立したクルマがあります。一般的にそれはMiniとBeetleだと言われていますが、私はPandaもその一つだと思います。

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これらのクルマはそのモデルが独立して一つのクルマの形として存在しており、VOLKSWAGEN社の一品種としてのBeetleではなく、「Beetle」として認知されていますし、同様にMiniも歴史的に次々と変ったメーカー名を飛び越えて、Miniとして認知されて来ました。その理由は、クルマのコンセプトが明確で、そのコンセプトに忠実に具体化したクルマであったことで、そのコンセプトそのものが支持されると、そのクルマは当に「それ以外には考えられない」モデルとなったからではないかと思います。

これほど「鉄板」のモデルが世に出ると、メーカーとしてはベストセラーモデルを持つと同時に、新しいジレンマを生むことになります。それは後継モデルの問題で、コンセプトが同じであればすでに「正解」が世に出ているのですから、次のモデルは先代を超えることができず、優れた実績のあるコンセプトを変えてしまうと、そのコンセプトそのものが支持されなければ全く売れない・・・というジレンマなのですが、案の定、MiniもBeetleもこのジレンマに陥ってしまいました。現在のMiniはオリジナルのMiniのコンセプトとはまったく別の、単にルックスだけを似せたものですし、New Beetleも同様です。唯一、違った方程式でその同じコンセプトを解くことに成功したのがGolfであったと思うのですが、残念ながらそれ以外のモデルは、その初代が唯一無二のモデルとして今尚、「正解」であり続けているのですから、名車を世に出したメーカーが必ずしもビジネスとして成功したワケではないことは、マーケティング論のケーススタディとして取り上げる価値のある実に皮肉な現象ではないかと思います。

そしてFIATのPandaもその「正解」の一つだと思っているのですが、このPandaの魅力は「安物」であることだと思います。生活の道具としてのPandaのコンセプトは実に明確です。そしてその明確なコンセプトを具体化したのは巨匠ジゥジアーロで、彼は同時に初代のGolfのデザイナーでもありますので、この実用生活車というコンセプトを具体化する名人であると言えるでしょう。

Pandaはそのコンセプトである「安物」を全く隠そうとしないクルマでした。徹底的にコストダウンされたパネルは簡単なプレス型で製造でき、フロントガラスは全くアールのない平板なものでした。また、通常は左右別に製造される樹脂パーツは左右対称になるようデザインされており、天地を変えれば左右のパーツを共用することができます。室内は鉄板剥き出しで、樹脂パーツには平気で成型時のバリが残ったままのものもありました。
しかし、このPandaは絶大な支持を受けることになります。その理由は「安物」であることが「貧乏臭く」なかったことで、あたかも日用雑貨のように安心して気を使わずに使い倒すことができたからだと思います。

同様の実用生活車というコンセプトを持つのが日本の軽自動車だと思うのですが、これらの軽自動車とPandaとの決定的な違いはこの「貧乏臭さ」だと思います。つまり少しでも高級感を出すために、樹脂パーツにレザーのような表面加工を施したり、安物のシートに無理をして高級感のあるファブリックを使ったりした内装は、知恵と技術の結晶ではあると思うのですが、それはどこまで行っても「もどき」でしかなく、そんな薄っぺらな「高級感」は、ショールームで見るときはともかく、いざ手に入れて使い始めるとユーザーに惨めな「貧乏臭さ」を感じさせてしまうのです。
しかし、一方のPandaは堂々と安物感を前面に押し出して来ますが、それは安物であることを前提としたデザインであるために、最初からその素材の持ち味を最大限に生かしており、結果としてPandaを一つのブランドとして成立させていました。

こんなPandaは様々なユーザーにアピールしました。それは経済的な理由から、本当はもっと高級なクルマが欲しいのに、やむを得ずPandaしか買うことができないからではなく、Pandaに乗ることに積極的な理由を持つユーザーで、私の周囲にはセカンドカーとしてPandaを買う仲間が多くいました。それらはアルファ164のような、ある種神経を使うことの多いクルマを持つユーザーであったり、フェラーリやマゼラーティ、ポルシェといった高級車をファーストカーに持つユーザーで、彼らにとってPandaはそのファーストカーとの対極にある、全く気を使わずに乗ることのでき、しかも貧乏臭さの全くない「癒しのクルマ」であったのです。

そんな初代Pandaも齢を重ね、だんだんとメカニカルな面で全く気を使わずに乗ることができなくなってしまったのですが、最近になってようやく初代Pandaユーザーにとっても二代目のPandaが気になるようになって来ました。その理由は中古車となってこなれてきた値段で、国産軽自動車の新車と勝負できる中古車価格により、ようやく二代目Pandaもその車格と値段のバランスが取れて来たのではないかと思います。

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この二代目Pandaは名前こそPandaと名乗ってはいるものの、初代のPandaとは全く似ても似つかないクルマです。初代のデザイナーがジゥジアーロであったことに対して、二代目はFIATの社内デザインですし、初代の持つ安物感は二代目にはありません。ボディも一回り大きくなり、オトナが4名乗車できる室内スペースが確保されています。

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最初に二代目Pandaが発表されたときに、初代Pandaのオーナーはそのデザインに眉をひそめたのですが、二代目がPandaと名乗る理由は実際に乗って見ると良く理解することができました。
FIATが二代目のPandaに引き継いだコンセプトは「尖ったところのない、全く気を使わずに乗れるクルマ」という生活車の基本でした。

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チョイ乗りで試乗させていただいた二代目Pandaの乗り味は、何の変哲もないものでした。全ての操作系はあくまでも素直で自然な位置にあり、初めて乗ってもコクピットドリルなど必要とせず、オーナーズマニュアルも不要なほどです。エンジンもこれまた自然で、ドライバーの感覚を全く裏切りません。このくらいアクセルを踏めばこのくらいスピードが出るよな・・・と思えばその通りとなり、この位ブレーキを踏めば・・・と思えばちゃんと止まります。唯一気になったのが電動アシストのステアリングくらいで、私自身が慣れていなかったこともあり、最初はステアリングの反発力の変化に戸惑いましたが、こんなものはすぐに慣れてしまうのでしょう。そのステアリングも新しいオーナーによりレザー巻のグリップが太いものに交換されたのですが、それだけでも随分とステアリングフィールは改善されたのではないかと思います。

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リアウィンドウの開閉は電動ではありません。今どき軽自動車にも当たり前に装備されているパワーウィンドウすらないのですが、リアのパッセンジャーがハンドルを廻して窓を開ける・・・という運動とボタンを押すという運動の違いに何ほどの価値があるのかと突き詰めれば、手動でも何の問題もないことが分かります。
Pandaの魅力の一つがこの「当たり前」で、全く無理をしていないクルマを日常のアシにすることにより、ドライバーも肩の力が抜け、日常のストレスから解放されるのではないかと思います。

ストレス解消には様々な方法があると思います。スポーツで汗をかくことによってストレスを解消する方にとってスポーツカーはその手段となり得るでしょう。また、静かなバーで美味しい酒を飲むことがストレス解消になる方にとって、どこまでも静かな高級車を運転することはその目的に適ったクルマだと思います。
そしてこのPandaは、当たり前の日常を自然体で過ごすことを欲するドライバーにとって最も適したクルマではないかと思うのですが、そのPandaを今回新たに購入したZAGATORさんにとって、Pandaは当に癒しのクルマで、もう一台の愛車であるAlfa RZとは対極にある実に良い組み合わせだと思います。

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そんなPandaの納車に際して何かワンポイントとなるアクセントを考えて・・・との依頼で、私が提案したのがサイドのピンストライプでした。
これは往年のロールス・ロイスやベントレーのボディにハンドペイントで入れられたピンストライプからインスパイアされたものなのですが、上下二本のピンストライプは上が細く、下が太いもので、その二本をサイドのプレスラインを跨いで貼ることにより、カクテルブルーというボディカラーでトールキャビンのPandaを少しシックに見せ、かつボディの上下を分離することにより、デザイン上のアクセントとなっているルーフラインを際立たせようと目論んでのものでした。

サイドショットの写真を送ってもらいPC上で様々な色を試してみたのですが、結局落ち着いたのが少し暗めのシルバーで、色見本からこのシルバーを指定して、COLLEZIONEでその施工をお願いしました。
施工していただいたのはリッコ ファブリカの笹川氏で、たかがストライプと思いきや、その丁寧で緻密な施工はさすがプロの仕事でした。

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さて、出来上がりはいかがでしょうか。これは予想外だったのですが、プレスラインを跨ぐことにより上のラインと下のラインの光が当たる角度が変り、光線のあたり具合によって色が変わって見えるという嬉しい誤算もあり、オーナーであるZAGATORさんにも大変気に入っていただきました。

この木綿のTシャツのようなPandaは、何も気を張らず、楽に着こなすことのできるクルマで、スーツにネクタイという日常の服装から着替えるように、ドライブすることによって日常生活で張り詰めて疲れてしまった気持ちをゆっくりとほぐしてくれるのではないかと思います。

木綿のTシャツは洗うたびに味が出てくるものですから、どうかZAGATORさんにはこのPandaを素のままで使い倒していただきたいと思います。

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アルファ・ロメオのアイデンティティ

アルファ・ロメオほど何度も「死んだ」自動車メーカーはないでしょう。

それはいつの時代にも存在し続けている熱烈なアルファ・ロメオファンによって「殺された」のですが、私が知る限りではアルファ・ロメオは100年の歴史の中で4度死んでいます(笑)。
最初は戦後にそれまでの高級少量生産車メーカーから量産車メーカーに転進したときで、それまでのアルファ・ロメオオーナーは、「これで自分達の知るアルファ・ロメオは死んだ」と言いました。
そして二度目は国策でナポリに工場を新設してアルファ・スッドを生産することになり、エンブレムから「MILANO」の文字が消されたときで、「アレーゼ以外でもクルマを製造することになったアルファ・ロメオは最早アルファ・ロメオではない」と言われました。
そして、三度目はFIAT傘下に入り、Tipoシャーシーを共有したFF車を生産することになったときで、「FR車ではないアルファ・ロメオなんて最早アルファ・ロメオではない」と言われました。
4度目は、アルファ・ロメオ独自の設計によるV6エンジンの製造が終了し、GMとの技術提携によるエンジンがアルファ159に搭載されたときで、「独自のエンジンを持たないアルファ・ロメオはもはやアルファ・ロメオではない」と言われました。

このように4度も死んだアルファ・ロメオが現在も存在しているのは、それぞれの時代でアルファ・ロメオをアルファ・ロメオたらしめている要素が異なっており、アルファ・ロメオというブランドの何をファンが支持しているかが時代と共に変遷を遂げてきたからなのではと思います。

今回、日本に上陸したTZ3を見たことにより、自分にとってアルファ・ロメオとは一体何だろうと今一度考えて見るきっかけになったのは、このTZ3が紛れもないアルファ・ロメオでありながら、アルファ・ロメオとは全く縁がないクルマであったからに他なりません。

このクルマをご紹介するためにはアルファ・ロメオのTZというモデルについて説明しなければなりません。多くの読者の方にとっては説明なぞ不要かと思いますので、もう一度おさらいという意味で、過去の記事でご紹介したアルファ・ロメオTZ1TZ2の記事をお読みいただければと思いますが、そもそも最初のTZ3は2010年のヴィラ・デステで行われたコンクール・デレガンスに出品されたクルマです。

デザインを担当したZAGATOはPININFARINAと並び、アルファ・ロメオと最も関係の深いカロッツェリアだと言えます。歴史的にはZAGATOはその軽量化技術と空気力学に優れたデザインにより、コンペティションモデルを得意として来ました。しかし、このTZ3はアルファ・ロメオからのオーダーに基づいて製作されたクルマではなく、オーナーからのオーダーによりコンペティションモデルとして製作されたクルマでした。エンジンはマセラーティのV8エンジンを搭載しており、シャーシーもカーボンファイバーのオリジナルでしたので、アルファ・ロメオのエンジニアはこのTZ3には一切関与していないのです。
アルファ・ロメオの100周年を記念する意味も込めて製作されたこのTZ3が、アルファ・ロメオのパーツや製造技術とは何の関係もないクルマであったことは物議をかもしました。
多くのアルファ・ロメオファンにして見れば、どこから見てもアルファ・ロメオTZ2の流れを汲むデザインでありながら、クルマとして見ると全くアルファ・ロメオではないこのクルマを何と呼ぶべきなのかを断じかねていたのです。

しかし、個人オーナーが自らの意思でオーダーしたのですから、このTZ3に文句をつける筋合いは誰にもなく、オーナーがこれをアルファ・ロメオであると思えば、それで良い話であったのですが、このTZ3はこれだけでは終わらなかったのです。
それはこのデザインの素晴らしさで、アルファ・ロメオファンの多くは現行モデルの貧弱なモデルバリエーションとデザインインパクトの乏しさにうんざりしていました。確かに8C Competizioneは素晴らしいクルマでしたが、このクルマもアルファ・ロメオの現行モデルとは何の関連性もないモデルであったのですから、このTZ3のようなデザインのクルマがアルファ・ロメオと名乗ったとしても、それは許されることであり、このTZ3を支持した理由は、むしろこんなモデルをアルファ・ロメオに造って欲しいというメッセージであったのでしょう。

かくして、TZ3はさらに9台が製造されることとなりました。しかし、当初のTZ3のようなコンペティティブなものではなく、ロードゴーイングモデルとしてもっと「お手軽」に乗ることのできるモデルとして製造されることになったのです。
しかし、残念なことにこのTZ3のデザインを受け止めることのできるシャーシーもエンジンもアルファ・ロメオにはありません。そして選ばれたのが親会社であるフィアットと新しく提携することとなったクライスラーブランドのダッジ・バイパーだったのです。

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9台製造されるうちの2号車であるこのTZ3は、南青山の路地の一番奥にひっそりと佇んでいました。恐らく誰も通りすがることはなく、このTZ3を見るために訪れる人しか踏み入れることのないであろうこの空間は、TZ3を展示する場所としては相応しい場所のように思えました。実際に表からちらりと見えたTZ3はアルファ・ロメオを知る人にとっては充分すぎるオーラを放っていました。

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TZ3はサイズ的にはダッジ・バイパーと同じなのですが、バイパーと比べると印象的には小さく見えました。

最初に一回りして見たときの印象は・・・「造りが良い!」というもので、最近面倒を見ている同じくZAGATO製造によるAlfa RZ(ES30)の立て付けの悪さ(笑)と比較すると天と地ほどの差があり、このTZ3のボディワークは素晴らしいものでした。尤も、そのお値段と9台という製造ロットを考えるとその全てが手作業で、徹底的にスリ合わせを行うのでしょうから当たり前と言えば当たり前なのかも知れません。

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フロントマスクはTZ2のイメージをうまく残しており、2号車特有の装備であるフォグランプも良いアクセントとなっていると思います。

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特徴的なのはリアウインドウの処理でフラットサーフェス化された上に、クオーターウインドウから連続してラウンドされた処理はこれからのスポーツモデルのデザインに応用されそうな気がします。

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ルーフはABARTHのようなダブルバブルとされており、ヘッドクリアランスの確保にも効果があると思われます。

もう一つのデザイン上の特徴はリアのコーダ・トロンカで、歴代のTZシリーズの特徴を引き継いだものとなっています。それを強調するためにブラックアウトし、さらにリアの視界を確保するために上部をガラス化しているのですが、それでもルームミラーからの後方視界は殆どないと思われます。

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その劣悪な後方視界を補うのがサイドミラーで、デザイン上も工夫されていますが、特徴は何よりもその位置と大きさで、このクルマが実際に公道を走行することを前提としていることがうかがわれます。

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エンジンルームからの放熱は重要な問題なようで、エンジンフードには左右に大きなスリットが開けられています。しかし、それは単なる機能的なものではなく、ちゃんとデザインされており、中心部の盛り上がりを生かすためのデザインとなっています。

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サイドも同様で、スリットの中にマーカーを埋め込む手法は一般的ではありますが、エンジンフードのつなぎ目をうまく利用してデザインされています。そして輝く「Z」のエンブレムがマニアの心をくすぐります。

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ホイールはヘアライン仕上げで、これまたTZ2へのオマージュが見て取れます。

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マフラーはサイド出しとされています。これもTZ2のイメージを残したかったからだろうと思うのですが、保安基準上では問題があるかも知れません。

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インテリアは2号車特有のもので、CoSTUME NATIONALのチーフデザイナーであるエンニョ・カバサ氏のデザインによるものだそうです。他のモデルの内装との違いが分かりませんが、コンベンショナルなデザインながら質感に拘った上質な造りでした。

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さて、私自身は何らかの結論を出さなければなりません。
ZAGATOのデザインにより往年のTZシリーズのデザインの延長線上にある、紛れもない現在のTZと言えるこのTZ3。しかし、その中味はバイパーであり、アルファ・ロメオのエンジニアがエンジンをチューンしたわけでもなければ、サスペンスションのセッティングに関与したわけでもないこのTZ3は、アルファ・ロメオの単なる「そっくりさん」なのか、それとも「異母兄弟」なのか・・・。

恐らくその答えはこれからの自動車メーカーがどのような生き残り方をして行くのか・・・という課題と密接に関係しているのではと思います。
内燃機が終焉を迎え、電気、水素・・・と従来の自動車メーカーの持つ技術が意味を持たなくなってくる近い将来において、自動車メーカーの歴史的な独自性を唯一保つことの出来る、すなわち差別化することのできるものが、このブランドでありデザインではないかと思います。

今の私にとってはこのTZ3をアルファ・ロメオと呼ぶには抵抗があります。しかし、実車を前に佇んでいると、街中で見るMiToやGiuliettaよりもアルファ・ロメオらしいのがこのTZ3であることも事実なのです。

恐らくこの答えは皆さんの一人一人の中にあり、その答えがこれからのアルファ・ロメオの行く末を決めることになるのかも知れません。

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東京物語

私のような飛行機ヲタクにとっては、映画、小説、アニメといったメディアを見る際に、飛行機が登場するとなると、その描かれている飛行機にリアリズムを求めてしまい、どんなにストーリーが素晴らしくても、その小道具としての飛行機が正しく描かれていなかったり、リアルさに欠けていたりすると一気に興醒めしてしまうものです。

恐らく、数ある飛行機が登場するアニメの中で、一番有名な作品が宮崎駿氏の「紅の豚」だと思うのですが、その登場する飛行艇は実在した飛行艇をベースに宮崎氏のコダワリにより架空で改造されたもので、仮にそれが実在しなくとも、その作品の世界にとってそれは必要な改造であり、そのストーリーの素晴らしさと相まってこの作品を名作たらしめていると思います。

東京物語

そんなアニメ作品の中で、最近気に入っているのが滝沢聖峰氏の一連の作品です。滝沢氏は北海道出身の1963年生まれとのことですから、私より3歳年下で恐らく幼少時代はどっぷりとプラモデル造りにはまった年代であろうと思われます。
氏の作品の素晴らしいところはその飛行機の描写だけでなく、ちゃんと素晴らしいストーリ展開が裏打ちをしているところで、飛行機を描かせたら恐らく世界でも三本の指に入るのではないかと思われるほどのリアリティに満ちた描写力が決して突出することなく、ちゃんとストーリーでぐいぐいと読ませてくれます。

特に最近気に入っているのが本日ご紹介する「東京物語」です。

主人公、白河大尉は陸軍航空隊に所属し、1943年の夏にビルマ戦線で戦っていました。当時のビルマ戦線では連合軍の反抗作戦が本格化し、新型機の配備もままならない中、次々と投入されてくる連合軍の新型機を前にして、中だるみの厭戦気分が漂っていました。そんな中にあって白河大尉は異動命令を受領します。新しい任地は陸軍航空審査部飛行実験部で、新型機や鹵獲した敵機などを試験評価したり、新しい兵装や戦術を実験する部隊でした。
こうして内地に帰還した白河大尉は、自宅のある東京の国立から福生にあった飛行実験部に「通勤」することとなります。そして、まだB-29による空襲が本格化する前の東京では、戦時下の厳しい統制生活ではあったものの、まだ日常の暮らしが営まれており、白河大尉は妻の満里子とのつかの間の平和な日常生活を送りながらも、厳しさを増す戦局の中、様々な航空機の試験飛行を行うこととなります。

この主人公白河大尉には恐らくモデルとなる実在の人物がいたと思われます。その人物とは主人公の所属する飛行実験部に実際に所属していた黒江保彦少佐で、陸軍のテストパイロットとして有名な方です。
黒江少佐は、二式戦「鍾馗」の試作機部隊に所属し、その後にあの有名な加藤隼戦闘隊と呼ばれた飛行第64戦隊の中隊長として着任し、加藤戦隊長の戦死後は戦隊長を務めた後に、飛行実験部に異動となり1944年1月に内地に戻ります。そしてさまざまな試験を行ったのですが、その中でも最も有名なのが鹵獲したP-51 Mustangを駆って各部隊を廻って行った模擬空戦で、現代で言うアグレッサー(仮想敵機)役を務めながら味方の戦技向上に尽力したことです。黒江少佐は戦後は航空自衛隊に所属し、航空団指令在任中に趣味で出かけた磯釣りで高波に呑まれて亡くなるのですが、この黒江少佐の姿に主人公の白河大尉の姿が重なって見えるのは、テストパイロットという優れた飛行技術に加えて、冷静な分析力や判断力を要求されるその人格を、作者がうまく写し取ったからではないかと思います。

そしてこの作品が単なる飛行機ヲタクのための戦記アニメで終わっていないのは、丁寧に描かれた妻の満里子との日常生活です。この作品を読まれたならこの満里子のファンになってしまうのではないかと思うのですが、彼女は決して当時の当たり前であった理想的な「軍人の妻」ではなく、夫と喧嘩はするしイタズラもするちょっと「やんちゃ」な女性です。この作品がその戦時下の夫婦生活をベースにしているところにこの作品の素晴らしさがあり、飛行機に興味がない方にも安心してお勧めできる作品です。

そしてこの作品のベースにあるのは徹底したリアリズムで、その生活描写も史実に基づく戦時下の暮らしが描かれています。また随所に描かれた飛行シーンも決して誇張された華々しい戦闘シーンではなく、あくまで史実に基づいたもので、作者が戦史と当時の航空機を知り尽くしていることが伺われるものです。

日本の戦時下では全ての日本人に精神論がまかり通っていたように思われがちですが、冷静に戦局を分析し、連合軍の技術力や工業力を正しく評価し、認識していた人々も多かったと思います。
その中でも実戦経験のあるパイロットは特にそうで、敵の航空機の性能やパイロットの技量を目の当たりにするのですから、他の兵士よりもはるかにそうした実情はナマで感じていただろうと思います。
その中でも特に主人公の白河大尉のようなテストパイロットという仕事であると、余計にそうした情報に多く触れることができたであろうと思いますし、この作品にも鹵獲したP-51 Mustangの性能に感心すると同時に、エンジンの油漏れがないことや、エンジン始動がコクピットからセルモーター一発でできることなどが描かれており、単に性能だけでなく、当時の日米の工業力の差についても触れられています。

ともすればヲタクを感心させるだけのマニアックな劇画となってしまう題材を決してそこで終わらせず、むしろ一般の方?でも読みやすく、かつどんな戦史よりも分かりやすく戦時下での暮らしを描いた作品として、この東京物語は今までになかった作品だと思います。

現在は上巻が発行されており、続けて下巻も近日発売されますので、興味を持っていただけたなら是非お読みいただければと思います。

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