辰巳PAでは休憩と共に、それまでのテストの感想をメモしたり、新たな疑問点を頭の中で整理してからまた出発です。

そして9号線を箱崎JCTに向かって走っているときに例のアンダーステアの謎がようやく解けました。
それは何台かのクルマを追い抜いたときで、交通マナーとしてはいささか良くないことですが、走行車線と追い越し車線の両方をジグザグに走行せざるを得なかったときに、明らかに今まで感じていたアンダーステアを感じなかったのです。
それは電動パワステか・・・?と思うほどの豹変振りで、
それまでのゆっくりしたステアリング操作のときに感じていたアンダーステアが、クイックなステアリング操作を行うとニュートラルステアに変わり、思ったとおりにクルマの向きを変えることができたのです。面白くなった私は道路が空いた場所で高速レーンチェンジを試してみました。
すると、
4WDの安定したトラクションと高いシャーシ剛性に加えて、素晴らしいサスセッティングの全てがバランスされていることを感じることができ、水平移動しているのか?と思うほどにクルマは右へ左へとボディの揺り返し、所謂「お釣り」がなくレーンチェンジをすることができるのです。

そして極め付きは箱崎JCTから環状線(C1)への合流路でした。首都高を走ったことのある方はご存知だと思いますが、首都高環状線はJCTの合流路だけでなく逆バンクのカーブが多く、雨の日などにオーバーズピードで突っ込むと随分と怖い思いをすることがあります。そもそもどうしてこのうような設計をしたのか・・・と思うのですが、考えて見れば首都高環状線は東京オリンピックを目指して造られた道で、当時のクルマの性能を基準としたのであれば、カーブにバンクをつけて設計する必要はなかったのでしょう。それを抜本的に改修せずに、スリップ防止のためかザラザラした高μ舗装を施したりするので、余計にタイヤグリップが変化してしまい、雨の日などは余程路面のことを知っていないとかえって危険な道路なのですが、その逆バンクの合流路を結構なスピードで走り抜けることができたのです。ゴムも硬化して山は5分山程度のBS Playzは、この路面では相当なロードノイズを発生させますが、クルマそのものは物理の法則に抗いながらも全く破綻の兆しはなく、切り込んで行った舵角はそのままで、アクセルコントロールでクルマの挙動を安定させることができました。
では、今までのステアリング操作とは何が違ったのでしょう・・・。それはどうやらステアリングの切り始めのスピードで、アクセル開度を一定にして少しづつ切り増しをして行くようなステアリング操作をしたときのデルタは安定志向で、反対に一気に舵角を与えるようなステアリング操作をしたときにはまさに、「人馬一体」の動きをするのです。
それはあたかも「人感センサー」でも仕込んであるのかと思えるほどで、
のんびり走りたいと思っているときにはゆっくりとした挙動を示し、「やる気」になっているときにはそれに応えてくれるのです。さらにそれを確かめるべく、合流した環状線(C1)の銀座から新橋までの入り組んだ細かいカーブを「やる気モード」で走って見ました。すると、やはりこれがデルタだよなぁ・・・という気分を味わうことができました。
これは高速のS字カーブを抜けるときに顕著で、荷重移動がスムーズに行われるために安心して踏んで行くことができます。特にデルタは
アクセルオン時の挙動がナチュラルで、ステアリング操作に加えてアクセル開度を組み合わせることにより、
アンダーステアからニュートラルステア(弱オーバーステア?)までを自由にコントロールできることが分かりました。
これは病み付きになる楽しさですが、ドライバーの快楽のためと言うよりもラリーマシンには必要不可欠なセッティングなのかも知れません。
では、ブレーキは?と言うと、これまた現代のクルマに慣れている方にはちょっと頼りないと感じるかもしれません。
デルタのブレーキは踏力でガツンと効くタイプではなく、ブレーキペダルのストロークに応じて効くタイプのセッティングです。すなわち
止めるためのブレーキと言うより、スピードコントロールのためのブレーキと言うことができます。決して制動距離が長いという意味ではなく、ラリーにおいてはそちらの方が重要であるための合目的なセッティングですので、アクセルのオンオフに加えてブレーキを使うとさらに面白いようにクルマの挙動をコントロールすることができるのです。
この二面性は実に有難いセッティングで、日常使いのクルマがいつもシビアな挙動をするものだと、疲れていたり気持ちが盛り上がっていないときなどは、その運転で余計に疲れてしまうのですが、デルタはそのドライバーの両方の状態に最適の挙動で応えてくれるのです。
技術的にどうしたらそれが可能なのかは良く分かりませんが、昨今の電子デバイスを一切使わずにそれが実現できていることは本当に驚くべきことだと思います。

そして、個人的なオススメなのですが、デルタを初めて手に入れる方は、最初はタイヤを新調せずにまずはデルタに慣れることをオススメします。デルタのシャーシーは充分な余力がありますので、タイヤグリップがなくなってもまだステアリング操作でクルマの体勢を維持することができます。低い速度領域で充分デルタの挙動を理解してからタイヤを新調すると、どこまでがタイヤのお陰か・・・が分かると思います。
繰り返しになりますが、デルタにはABS以外のアクティブうんにゃら・・・や可変制御ダンパーなどの電子デバイスは一切ありません。それはすなわち、
自分自身のドライビングミスを助けてくれるのは、デルタのメカニカルなシャーシーダイナミクスしかないということです。大切なデルタで事故を起こさないためにも、まずは自分のドライビングスキルとデルタの限界との関係を見極めるために、ボロいタイヤでわざと限界領域を下げてチェックしてみてはいかがでしょうか。

汐留のチッタナポリに行こうと思ったのは、寺島社長のところに送られてくるイタリアのデルタオーナーの写真に影響されたからで、イタリアの街並みとデルタとのコンビネーションが実に素晴らしかったからに他なりません。
早朝のチッタナポリは私だけでなく、雑誌の取材か他にもクルマの撮影をしているグループがいましたが、お互いに撮影場所を譲り合いながら無事に様々な写真を撮ることができました。相手は機材も立派なプロカメラマンであることに対して、こちらはシロートのコンクパクトカメラによる撮影ですので、写真の出来栄えは比べるべくもありませんが、モデル(被写体)はこちらの方が上手であったと自負しています(笑)。

ここまでのテストドライブでデルタの本質が少し分かって来ましたので、ここから第三京浜の都筑PAまでは少しお楽しみドライブとすることにしました。札の辻交差点から下道でレインボーブリッジを渡り、湾岸線に乗ったらK3-K2経由で第三京浜の目的地までは、今までの環状線と違って高速でのデルタの挙動を楽しむことができるルートです。
都筑PAでのミーティングの後は少しワインディングを試すために、横浜横須賀道路を走って湘南国際村周辺のワインディングを経由して逗葉新道を使って都内に戻って来ることにしました。
テストドライブという意味ではこのルートは最早余計だったかも知れません。今までのルートでデルタが懐の深い、真のドライバーズカーであることは充分分かりましたので、それを再確認するために走っただけのことになってしまいましたが、お陰でこのルートを走りながら、何故、デルタが走って楽しいのか・・・。他の走って楽しいクルマと何が同じで何が違うのか・・・について考えることができました。

私達のようなクルマ好きにとってクルマは人間のようなところがあります。ですので、人間同士に相性があるように好きなクルマも人それぞれだと思います。
「かしこまりました。ご主人様。」という家政婦のように、御願いしたことをちゃんとやってくれるクルマが好きな方もいるでしょう。
現代のクルマはさしずめ優秀な執事のようなもので、「旦那様のことは私が一番存じ上げております」と、こちらが黙っていても必要なことを見越してやってくれることを心地良いと感じる方もいるでしょう。
反対に全く言うことを聞かず、わざとじゃないか・・・と思うほどこちらを裏切り続けるのですが、ふとした時に最高の表情を見せてくれるツンデレの恋人のようなクルマが好きな方もいるでしょう。

じゃあデルタは何だろう・・・と考えたのですが、その結論は
「饒舌な親友」でした。
デルタはこちらの気分をちゃんと察してくれますが、決して黙って見ていてはくれません。いつもちゃんと話しかけてくれ、こちらもその話を聞く耳を持つ必要があります。そしてお互いのその会話がかみ合うと、その時間は親友とバーのカウンターで交わす人生についての話のように、実に芳醇で含蓄に富み、後味の良い時間を過ごすことができるのです。
恐らくデルタのオーナーは乗るたびにデルタとのその芳醇な会話を楽しんでいるのでしょう。ラリーウェポンとしてのデルタは単なる一面でしかなく、
オーナーカーとしてのデルタはその爪も牙も単に喧嘩の強い友人の武器であり、一番楽しいのはその友人との会話なのだと思います。
今まで何人ものデルタオーナーにお話をお伺いしたのですが、皆さんが購入のきっかけとして挙げていた「WRCの活躍」は単なるきっかけで、手に入れてからのこの濃密な関係についてあまり語られなかったのは、親友の素晴らしさを他人に語るのが気恥ずかしかったのか、どうせ話しても分からないだろうと思ったのかも知れません。
もし、私自身がデルタのオーナーであったなら、気恥ずかしくて話さなかったでしょう。
デルタは一生の親友となり得るクルマです。もちろんあなた自身もその親友にとって「語るに足る」友である必要もあるのですが・・・。
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テーマ:イタリア車 - ジャンル:車・バイク
今回のデルタ試乗(名前が長いのでこの記事でのデルタとはDelta Integrale 16V Evoluzione Ⅱのことです)はいつもの初期化のためのテストドライブと異なり、そのクルマがどういうクルマなのかを感じるための試乗ですので、自分のアタマの中のチェックリストを一旦白紙にして、クルマの状態を把握するのではなく、様々なシチュエーションでのクルマの挙動を重点的にテストすることにしました。
しかし、今や新車の試乗車がない以上、このデルタの魔力の謎を探るためには、リセットデルタのような限りなく新車に近い個体でなければ、私のようなシロートドライバーではそれがそのクルマの味なのか個体差によるものなのかが分からないため、今回の機会は願ってもないことで、中古車であることから逆算してそのクルマの新車の状態を想像するという必要がないことは本当に有難いことです。

借り出したリセットデルタは、エヴォルツィオーネⅡという最終モデルの中でもジアラ(黄色)という220台限定で製造されたモデルでした。
今回の試乗のメニューの中には「白金台アルファロメオクラブ」が主催する「朝カフェ」という日曜日の朝のミーティングで皆さんに見ていただくという目的もありましたので、その前日の夕方に借り出すことにし、自宅の駐車場に戻るまでの間、ちょい乗りで街中を少し走って見ることにしました。

私の体格は身長180cm、体重75kgと大柄で、手足の長さはこれまた標準的なアジア人の長さ(つまり白人に比べて短い)だと思います。
そんな私が今まで乗り継いできたイタリア車の多くはドライビングポジションが自然に決まらず、どこか無理やり身体を合わせなければならなかったのですが、
デルタの運転席に乗り込み、シートポジションを合わせるとそこにステアリングがあれば・・・と思うところにステアリングがあり、このくらい膝を伸ばしてペダルに届けば・・・と思うところにABCペダルがあるという理想的なポジションを取ることができます。
シートはレカロ製のもので、サイドサポートがしっかりしており、自然に腰が固定されるために少々ハードなドライビングをしても身体が持っていかれることもないでしょう。
私がドライビングポジションを合わせた状態でのリアシートです。

新車をショールームなどで検分する際に、私が真っ先にテストするのがこれで、カタログで車内寸法を見ても良く分かりませんので、自分のドラポジで合わせたフロントシートの後ろのリアシートに同じく私がどのような姿勢で座ることができるかが、私にとってその4シーターキャビンの良否を判断する材料となります。
膝には余裕がありませんが、短い足のおかげで(苦笑)、膝を斜めにせずに後席にも座ることができます。ヘッドルームもちゃんと余裕があり、
このサイズの4drHBとしてデルタはなかなか優秀なキャビンルームを有していると思います。


室内の造りはこの時代のイタリア車としては標準で、現代のクルマのような立体的なダッシュボードの造型や、クレジットカードも入らないほどの各パネルの合わせなどは望むべくもありませんが、反対に
現代のクルマにはないプリミティブなスポーツセダン(4drHBですが・・・)特有の空間があります。インパネのデザインはともかく、その照明は時代を感じさせるもので、現代であれば当たり前の各メーターの透過照明がなく、メーターパネル全体を照らすランプがついているだけです。これでは真っ暗な夜道を走るのであればともかく、都会の明るい夜道ではインパネの照明は無いに等しく感じます。

左右に配置されたスピードメーターとタコメーターは各々の針が向かい合って見えるように配置されています。つまり左のスピードメーターの針は9時が始点で時計回りに上がって行き、一方で右のタコメーターの針は3時を始点として上がって行きます。これは演出と言うよりデルタのようなスポーツマシンのドライブには必然的な装備で、互いに始点が水平に配置されているために、ドライバーは最も有効なトルクバンド上の回転数とスピードの両方を一瞥しただけで見ることができます。そしてパネル正面にはブースト計が鎮座しており、常に視界に納めることができるのも、このクルマが常に最も効率よくパワーを出し続けねばならないラリーマシンであることを感じさせてくれます。
デルタのメーターは「適当に」配置されているのではなく、その種類と配置はドライバーにとって必要なものを優先的に配置した結果であることが分かります。
ちなみに、クイック・トレーディングではこのデモカーにもリセットオプションの一つであるLED照明を組み込む予定とのことですので、この照明の暗さは随分と改善されると思います。

走り出してすぐに感じる点はシフトの剛性感です。アルファ・ロメオのシフトフィールはお世辞にも良いとは言えず、どちらかと言うと「ぐにゃぐにゃ」な感触で、唯一コクッコクッとしたシフトフィールだったのがゲトラグ製のMTを装備したアルファ164Q4でした。
しかし、
デルタのシフトフィールはそのゲトラグを凌ぐ剛性感で、シフトゲートも短く、確実に各ギアにエンゲージすることができます。思わずクイックシフターでも入っているのかと聞いたほどのショートストロークなのですが、人間の感覚にマッチしており、とても気持ちの良いシフトでした。
次に感じたのは残念ながらボディからの軋み音でした。しかし、街中のチョイ乗りではこれがシャーシーを含めたモノコック全体の問題なのかが分かりませんので、次の日の本格試乗のチェックポイントにすることにし、この日は早々に駐車場にクルマを納めることにしました。
それにしても、私の駐車スペースには様々なクルマが入れ替わりで駐まるために、ご近所の方は私がクルマ関係の仕事をしていると思っているようです(苦笑)。
翌日は夜明けと同時に駐車場をスタートして「朝カフェ」の会場である第三京浜の都筑PAに向かうまでの間とその後にテストドライブをすることにしました。
その最初のルートは首都高5号線中台入口から板橋JCTを経由して中央環状線(C2)で南下。葛西JCTから湾岸線を経由して辰巳PAで一旦休憩。9号線で都心に戻り、箱崎JCTを経由して環状線(C1)に入り、新橋ランプを降りて汐留のチッタイタリアで車両撮影をこなすというルートで、休日の早朝でクルマが少ない場合には、ここまでの間でも結構様々なテストをすることができます。

まずはガソリンスタンドに立ち寄り、テストドライブの大前提となるタイヤの空気圧のチェックと、自分の朝食の買出しです(笑)
そして首都高に乗って少し走ると昨晩の疑問が氷解しました。
デルタのボディはフルモノコックとは思えないほど、シャーシーと上モノが別の仕立てです。すなわち、ストラットを含むシャーシーの剛性は高く、フロアが変にグニャっとしたりする感覚は一切ありません。しかし、一方でドアから上のボディは結構ユルく、現代のクルマのモノコック全体の高剛性とは全く違うものでした。
カタログデータを見るとデルタの車重は1,340kgで、現代の基準で見ると充分に軽いのですが、聞けばワークスデルタはホワイトボディを酸漬けしてさらに鉄板を薄くして軽量化し、最終的にはトータルで200kg以上減量したそうです。ワークスデルタは車内にロールケージを張り巡らせるのですから、大切なのはシャーシー(フロアパン)の剛性で、上モノはどーでも良いのでしょう。
車内は結構ガタピシ言いますが、それがボディ全体が緩いことによる音ではなく、この辺りからまずこのクルマがホモロゲーションモデルを出自にしていることが窺われます。


フロントストラットには標準のタワーバーが装着されているのに加えて、リアにはクイック・トレーディングのオプションパーツであったタワーバーが装着されています。この2本のタワーバーがシャーシーの剛性に大きく寄与していることは言うまでもないでしょう。
次のチェックポイントは板橋JCTの緩い下りの合流カーブです。
ここでデルタの意外な面を見ることになりました。それはステアリングで、
ゆっくりとステアリングを切り増ししながらコーナーを曲がっているときに鈍重?と思えるほどのアンダーステアを感じたのです。切っても切っても曲がっていかない・・・というか、途中で切り増しをしないとラインをトレースできないほどだったのですが、最初はアルファ164Q4のヴィスコマチックのような電子制御が一切ないフルタイム4WDなのでこんなもんか・・・と思ってしまいました。
ちなみにタイヤサイズはノーマルの205/45/16で、BSのPlayzというすでに賞味期限の終わったタイヤが装着されていました。しかし、このボロタイヤ(苦笑)のお陰でかえってクルマの特性が際立ち、さらにテストドライブを安全に行わせてくれることをこの後に知ることになります。
中央環状(C2)に入るとアップダウンの続く緩いワインディングで、サスの追随性をチェックすることができます。ノーマルのデルタの足回りは決してガチガチなセッティングではなく、こうしたアップダウンのカーブでもトラクションが抜けたりすることはありません。むしろ安心して踏んでいける足回りだと思います。
ある程度の乗り心地を確保しながらのこのサスの仕事は流石で、ストラダーレとして絶妙のセッティングだと思いました。しかし、緩いワインディングでのアンダーステアは相変わらずです。
江北JCTからのC2は殆ど直線で、チェックするポイントは高速走行時の走行安定性くらいしかありませんが、ホイールベースがたった2,480mmしかない
デルタは安定して真っ直ぐに走ることができます。特筆すべきはエンジンの特性で、
シフトダウンして加速をしても過激なターボラグは一切ありません。最初はターボが死んでいるのかと思ったほどナニゴトも感じないので、思わずブーストメーターを見たほどです。
ターボチャージャーの過給を感じることができるという点では、私のテーマの方が遥かに過激なのですが、一方でスピードはちゃんと出ていますので、どうやらこのデルタのターボはマイルドなセッティングをされているようです。
これも後から聞いたのですが、エヴォルツィオーネⅠはもっと過激なセッティングとのことですから、ランチアはWRCから引退した後のモデルであるこのエボルツィオーネⅡには、一般ユーザーの乗り易さ重視のセッティングをしたのでしょう。それでもエンジンの最高出力はこのエボルツィオーネⅡの方が高いのですから、おそらくターボチャージャーの耐久性に関してはこのエボルツィオーネⅡの方が優れているのではないかと思います。
しかし、それは遅いという意味ではなく、ターボチャージャーの過給を感じながらの加速ではなく、「いつの間にか」ちゃんとスピードは出ていますので、ランチアのその「お気持ち」は有難いのですが、これでは却って免許が危ないかも知れません(笑)。
そしてこの後のテストで、それまでずっと感じていたアンダーステアが単に「隠された爪」であったことが分かりました。
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1986年5月2日。WRCラリー選手権、ツール・ド・コルスの2日目。
この日がこれからご紹介するLANCIA Delta HF Integrale 16V Evoluzione Ⅱが生まれるきっかけの日でした。
そしてこの日は稀代のラリードライバーHenri Toivonenの命日でもあります。
当時グループBカーで争われていたWRCのチャンピオンシップはその性能が過激になりすぎてしまい、事故が頻発するようになっていました。
グループBは1981年からFISA(国際自動車スポーツ連盟)によって規定された市販車をベースとした改造車のカテゴリーで、連続する1年間に200台の製造が必要でした。しかし、実際には市販車をベースに改造したのではどんどん戦闘力がなくなって行き、各メーカーは言い訳程度にその外観を市販車に似せたものの、車体は完全に専用設計し、その性能はもはやWRCのような公道を走るには危険すぎるものとなっていたのです。

彼がドライブしていたのはLANCIA Delta S4で、名前こそデルタと呼んでいましたが、その中身はチューブラーフレームにミッドシップエンジンと、市販車のデルタとは全く異なった設計で、その過激なエンジンチューニングとあまりに低すぎるパワーウェイトレシオ(2kg/ps以下)のために、プロのラリードライバーでも乗りこなすことが難しいクルマでした。
そしてアンリ・トイヴォネンは、かの名ラリードライバーであるマルク・アレンをして、このデルタS4を乗りこなせる唯一のドライバーと言わしめたほどの名手であったのですが、その彼はSS(スペシャル・ステージ)18のコルテ-タベルナ間のコース上7km付近の左カーブでコースオフし、そのまま崖下へ転落してしまいます。
車体側面を木の幹が貫き、クルマは炎上し、後続のブルーノ・サビーとミキ・ビアシオンが車を停めて必死の救助を試みるものの、燃えやすいマグネシウムホイールを装着し、ケブラー樹脂とプラスチックで覆われたデルタS4の車体はあっという間に全焼してしまい、コ・ドライバーのセルジオ・クレストとともに還らぬ人となってしまいました。
FISAはこの事故のわずか2日後に翌年からのチャンピオンシップをグループBからより市販車に近い、改造範囲が限られたグループAに移行することを決定します。
しかし、ランチアはグループAに適合する市販車をデルタしか持っていませんでした。

LANCIA Deltaは1979年に発表されたランチアの小型ハッチバック(ノッチバック版はPrisma)で、発表からすでに7年が経過し、モデルとしては末期を迎えたクルマでした。
しかし、ランチアはそのデルタにトルセン式のセンターデフを持つフルタイム4WDを搭載し、それまでHF Turboに搭載されていた1.6LのDOHCターボエンジンを2.0Lに拡大して搭載したHF 4WDを急遽開発します。
ランチアのワークスはその実質はマシンの開発からレースの運営までを行うことのできるABARTHのグループが担当しており、彼らにとっては制約の多い市販車をチューンアップし、そのベース車から想像も出来ないようなパフォーマンスを引き出すことはまさに「お家芸」で、彼らはこの7年オチのベース車であるデルタを見事にWRCで戦えるマシーンに変貌させてしまいます。

Delta HF 4WDはこうしてグループA元年である1987年のWRCにデビューします。そしてライバルであるAUDI 200 Quattoro、Ford Sierra XR4X4、MAZDA 323 4WD、などの他社の4WDを蹴散らして年間タイトルを獲得します。

ランチア-アバルトのワークスはさらにデルタの改良を重ね、翌1988年の途中にはブリスターフェンダーでトレッドを拡大し、エンジンもよりパワーアップしたDelta HF Integraleを投入し、またも年間タイトルを獲得します。
さらに1989年にはこれまでの8VのDOHCエンジンを16V化したDelta HF Integrale 16Vを投入し、3年連続でWRCの年間タイトルを獲得することに成功します。この時点でベース車のデルタは発表から10年が経過したモデルで、一方他社が続々と新型モデルを投入してくるのに対しての3年連続の勝利というのは、前代未聞のことでした。
そして、ランチアの勝利はこれに留まらず、さらに1990年、1991年と連続で年間タイトルを獲得するに至って、他のチームは、一丸となって「打倒ランチア」という布陣を引いて戦っていたのですが、一方のランチアはジレンマに陥っていたのです。
それは発表から12年が経過し、市販車としてはマーケットでの競争力を失っているデルタがどれだけWRCで勝利してもその販売には寄与せず、むしろ次期モデルの開発と市場への投入を難しくしていたのです。
すなわち、モデルチェンジした新型デルタを発売したならば、引き続きWRCに参戦してそれまでのデルタの勝利を引き継がねばならず、もしそこで勝つことができなければ、市販車としてどんなに新型デルタが優れていたとしてもユーザーは失望し、販売は伸び悩んでしまうだろうということです。
ランチアにとってデルタの勝利は新型デルタを葬り去ることとなってしまったのです。そこでランチアが下した結論は、デルタのWRC参戦を会社と分離してプライベートチームであるJolly Clubに任せ、自分達は陰でマシンの改良を行い、表面的にはランチアはWRCから撤退したという体裁をとるというものでした。また当時のランチアの経営状態はWRCにうつつを抜かしているような状況ではなく、親会社であるFIATは強行にWRCからの撤退を要求していたことも背景にあったと言われています。

そんな中にあって1992年にHF Integrale 16V Evoluzioneは生まれます。それまでのブリスターフェンダーは完全にボディと一体化され、車体の剛性はさらに向上し、各部のリファインとさらに強化されたエンジンを持つこのエボルツィオーネは、そのベースモデルであるデルタが発売されてから13年後のWRCでさらに年間タイトルを獲得するのです。
こうしてデルタのWRCでの戦いは終わりました。
ランチアは完全にWRCから撤退し、デルタの6年連続WRCメイクスタイトル獲得は前人未到の伝説となりました。
そしてデルタのストーリーは終わるかに思えたのですが、ランチアはWRCから完全に撤退した1993年に「最後の」デルタを発売します。それはWRCを戦うためのホモロゲーションマシンではなく、その6年間の戦いを支えてくれたユーザーに向けた感謝のモデルで、最大出力をさらに向上させ、ホイールはインチアップされて16inchとなり、各所に様々な改良が施されたHF Integrale 16V Evoluzione Ⅱは1995年まで生産され、本当にデルタのストーリーは完結することになるのです。
現在でも多くのユーザーに愛され、また新たなオーナーを生み出しているデルタを語る上で、このWRCでの活躍は無視できない背景ですし、実際にWRCに参戦したからこそ、本来ならばとっくにモデルチェンジされていたはずのデルタが、その性能においてライバルとなる他社の新型車に対して常にアドバンテージを持ち続けて来たのだと思います。
そして、
全てのデルタオーナーがそれを誇りに思うと同時に、購入したきっかけの一つとして挙げているのは尤もなことだと思います。
しかし、その事実を素直に認めたとしても、この記事を書いている現在、基本設計が33年前の何の変哲もない小型5ドアハッチバック車であるデルタを、そしてさらにそれが最終モデルであったとしても、その製造から17年が経過した立派な?中古車を、これほどまでの高値で購入するユーザーが後を絶たないことの理由としてはあまりに希薄です。
しかも、ユーザーの殆どはデルタをアルファ・ロメオのジュリアスプリントのようにセカンドカーとして保有するのではなく、ファーストカーとして使用するために購入しているのです。
私自身はクイック・トレーディングが主治医であるために、ずっと身近にデルタを見て来ました。
あるときは見るも無残なオンボロを、そしてリセットカーというコンセプトでデルタを新車以上のコンディションにリビルトし始めてからは、エンジンを下ろされてイタリア品質の配線や配管が剥き出しになった部品取り車のようなデルタが、やがて新車と見紛うような上物に変って行く様子を見続けてきました。
しかし、そのことがかえってデルタを味わうチャンスを遠ざけていました。敢えて言うなら、私自身がそれほどデルタに興味がなかったからなのかも知れません。
しかし、多くのデルタオーナーと親しくなるにつれ、これほどまでにデルタが愛される理由に興味が湧いてきました。つまり一般人がおおよそ理解できないであろう私のような変態オーナーですら理解できない(笑)、
何か得体の知れない魔力がデルタにあるのではないか・・・と思い始めたのです。それはきっと、オーナーにとって「WRCのチャンプマシンを保有する喜び・・・」などという通り一遍の理由ではないはずです。
これまで、出来上がる傍からオーナーの許に嫁いでいたリセットデルタですが、ようやくデモカーが出来上がったのを機に、そのデルタの謎を私なりに解き明かしてみようと思い、このリセットデルタを借り出すことにしました。
過去の記事でも書きましたが、私がテストドライブを行うときには最低でも半日程度の時間を使って、街中、高速道路、ワインディングと一通り走ってみることにしています。私自身はあくまで素人のアベレージドライバーで、レーサーや自動車ジャーナリストの方々のように一瞬でそのクルマの本質を見抜くような力はありません。ですので、それを少しでも補うためには長い時間乗らなければならないのですが、今回の試乗でデルタが愛される理由がほんの少しだけ分かった気がしています。
次回からの記事で、私なりに感じたデルタの魔力について書いて見たいと思います。
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メカニカルパートのリセットが完了したら、ボディの最終仕上げを再度わたびき自動車で行います。
わたびき自動車では板金と塗装は担当が分かれており、一般的には
全ての作業ができるようになるために15年はかかるそうです。自分で出来る仕事と出来ない仕事を見極められるようになるのに5年、そして全ての作業ができるようになってからが本当の修行で、量産工場とは異なり市井の板金塗装工場においては二つとして同じクルマはなく、常に一台一台が異なる状況での作業となるのですから、それを見極めて適切な作業を行うということはやはりマニュアルによる作業ではなく、積み重ねてきた経験を多く必要とするのでしょう。
ボディ塗装とは別に、すでに取り外されている外装パーツは塗装前にそれぞれ単体でチェックされて補修されます。
特にフロントスポイラー(バンパー)はDeltaの場合、複雑な形状をしており、さらに走行中にかかるテンションのためにルーバーの支柱にヒビが入ったり折れたりしてしまっている場合が多いために、これらを入念に補修しておきます。



こちらはリアアンダースポイラー(バンパー)の塗装準備の例ですが、こうした樹脂パーツは剥離剤で塗装を剥がすだけでなく、サンディングペーパーで研磨することにより表面の状態もチェックされ、そのまま塗装工程に進んで良いかどうかを確認します。この辺りの作業はプラモデルと同様ですが、そのスケールは1/1ですので、同じ作業であっても大変な労力を必要とします(苦笑)。



細かい樹脂パーツも全て単体で同様の工程により塗装されるのですが、プラモデルの場合は爪楊枝やクリップなどでなるべくパーツ全体に塗装ができるように工夫するのに対して、実車の場合はこうして塗装ブースの中で吊り下げて塗装されます。






ドアノブは永年の使用で爪による傷などが入ってしまう部分です。これらもちゃんと表面処理されてコーティングされます。

実はこうした細部は意外と重要で、
人間が触るパーツの「使用感」は新車と中古車との差を歴然と見せつけてしまう部分です。わたびき自動車での板金・塗装工においてはこうした部分も見過ごすことなく丁寧にリセットされて行きます。
フロントフードとリアハッチも単体で塗装準備されるのですが、単なる全塗装の場合はこうした作業も行われず、こうした可動部はボディから外されずに隙間をマスキングしただけで塗装されることが多いのです。


作業工程が前後しますが、ウインドウの下のボディ側は雨水のために錆が発生しやすい箇所です。この錆を放置するとどんどん進行して行きますので、細かく補修をしておきます。

そしてボディはいよいよ現在の塗装を剥離されて塗装準備に入ります。


剥離されたボディは金属のベースが露出しますので、ここからの作業は一気に行われます。防錆処理をする前の金属は空気中の湿気だけでも錆の原因となってしまうのです。


ボディも他のパーツと同様にサーフェイサーを塗装し、磨いて本塗装という工程を経るのですが、そこで使用される道具はプラモデルにも使用されているもので、例えば3M製のスポンジヤスリなどは元々は産業用に開発されたもので、それが今はプラモデルにも使用されるようになったものです。産業用のこうした道具は作業効率とコストを重視され開発されますので、その性能は素晴らしくプロが認めた道具には間違いがありません。


Deltaの場合はウインドウフレームが黒で塗装されていますので、これらはボディ塗装後にマスキングされて塗装されます。


ボディの塗装が終わると、単体で塗装された樹脂パーツを取り付けてボディ全体を粗磨き、中磨きを行います。
そこで、クルマはまたクイック・トレーディングに戻されて最終チェックを受けメカニカルパーツの動作チェックやセッティングが行われます。
そして、最後にわたびき自動車で最終の仕上げ磨きを行い、もう一度クイック・トレーディングで試運転を行ってからオーナーに引き渡されることとなります。


長らくお伝えしてきたLANCIA Deltaのリセットのご説明ですが、全体の工程図を載せておきましょう。以前から述べていますように、協力工場との密接なコラボレーションとコーディネーションがこの一連の作業に必要なことがお分かりいただけるかと思います。


最後にこの「リセット」という作業の価値について思うところを述べて見たいと思います。
おおよそ中古車を買う目的には二種類あると思います。一つは「安いから」で、この理由が中古車市場の存在意義であることは間違いないと思います。しかしごく少数であるもう一つの理由は、「新車で売ってないから」で、本当に欲しいクルマがすでに製造を終了しており、手に入れるためには中古車として買うしかない場合には、オーナーは中古車であるが故の「痛み」や「ヤレ」を何とかしてリカバリーし、欲しかった新車に近づけたいと願うのではないでしょうか。
その究極がフルレストアなのですが、一方でレストアは「新車の状態に戻す」ことであり、それはそのクルマの当時の技術レベルでの限界をも含めて、その状態を再現することに他なりません。クラッシックカーやヒストリックカーなどは日常の使用を前提としていないために、このレストアというアプローチは理解できますし、そもそも、そのクルマを欲しいと思った動機が日常に使うためのクルマにするためではないのですから、むしろレストアはそのクルマの価値を高めることになるでしょう。
一方でLANCIA Deltaのようなネオ・ヒストリックというジャンルのクルマはその立場が微妙です。それはオーナーの意思により、日常のクルマとして使用することも問題なくできますし、一方で「お宝」として大事に保管されることもあるでしょう。
つまり、
リセットとはそのネオ・ヒストリックカーを日常に使用しながら「お宝」とするためのアプローチであり、日常の使用に耐えるためにモディファイされるパーツは慎重に選択され、それが本来のDeltaの外観や走行フィールを損なわないものに限られています。日常の使用に耐えるようにするために結果としてDeltaでなくなってしまっては何の意味もなく、それはプリウスにDeltaのボディを被せることと同義となってしまいます。
そのためのコストは決して安くはありません。世に流通しているDeltaの中古車価格と比較すれば勝負にはならないでしょう。
現在の中古車実勢価格はこの記事を書いている現在で、最安値のHF Integlare 16Vの65万円から最高値のHF Integrale Evoluzione Ⅱ Collezione(最終限定モデル)の545万円!までと多岐に亘っていますが、平均相場は254万円で、最終モデルでも製造から12年が経過していることを思うと、その値段は高値と言えるでしょう。
一方で、この製造から12年という年月はそれが「奇跡」と言われる未登録の新車であっても、確実に様々な部品を劣化させてしまうことは、今回の一連の記事をお読みいただければご理解いただけると思います。
悲しいことに
全ての物質はそれが人間の手で加工された時点から劣化変質して行きます。変質そのものがその目的であるワインや醤油などを「熟成」と呼んでいるだけで、加工された時点での性質がその加工の目的である自動車のような場合は新車として工場を出た時点からこの劣化の時計の針は回り始めるのです。
リセットはその時計の針を元に戻すだけでなく、さらにその性能を現代の技術を使って製造当時には「あり得ない」クルマを造る「オーパーツ」とも言えるクルマにする作業です。しかし、一方でこのリセットはどのクルマにもできることではありません。
ベース車両を含めた部品供給の問題。新車製造ラインの技術者以上にそのクルマのことを知り尽くしたメカニックの存在。卓越した個々の職人技によってそれらを支えるインフラの問題。そして最終的にはその価値を認める市場(顧客)の問題。
これらが全て揃わなければリセット作業は成り立ちません。仮に市場そのものがなく、オーナーの意向により一台のみのリセットであったとしても、それ以外の要素がなければやはりリセットは成り立ちません。そういった意味ではコストの問題を別にすれば、リセットの方がレストアよりもずっと難しいと言えるでしょう。
そして、リセット作業は未来永劫できるものではありません。上記の要素が欠けてしまったときにはリセットそのものは不可能となってしまうのです。
クイック・トレーディングによるとこのリセット車の価格はそのベース車両の程度と内装を含めてどこまでリセットするかにもよるそうなのですが、全体で車両価格も含めて400万円~500万円とのことです。
絶対的な価格は決して安くはない金額です。しかし、これまでお伝えして来た作業の内容を見ると、それが標準化された作業となっていることにより、一台限りの作業に比べるとコストが軽減されていることが良く分かります。
なぜならLANCIA Deltaの新車当時の価格は、HF Integlare 16Vが520万円、HF Integlare Evoluzione Iが545.5万円、そしてHF Integlare Evoluzione Ⅱが565万円だったのです。
新車価格と比較すれば、このリセットされたDeltaの価格が決して高くはないことが分かります。
もし、私がLANCIA Deltaに惚れ込んでどうしても欲しいと思うなら、新車未登録の「奇跡」のDeltaを500万円で買うのではなく、間違いなくリセットDeltaを買うでしょう。そしてこのデタラメな事故修復を受けた「悲劇のDelta」はこのリセット作業のおかげで蘇ることができました。さらにこのリセット作業中に、このDeltaの居場所であった宮城は東日本大震災に見舞われました。仮にリセットに出されずにそのまま宮城に留まっていたならば何らかの被害を受けていたかもしれません。
「悲劇のDelta」は結果として「奇跡のDelta」となったのです。最後になりましたが、一連の記事を書くことを快く承諾いただいたオーナーのY氏、多くの資料写真を提供いただき、素人の私が分からないことが出るたびに辛抱強くご説明いただいたクイック・トレーディング様及びわたびき自動車工業様に感謝の意を述べさせていただきます。
本当に勉強になりました。ありがとうございます。そして、これからも一台でも多くの「奇跡」を生み出していただけることを願って止みません。
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このように「わたびき自動車」でボディリセットを行っている間に並行して、クイック・トレーディングではメカニカルリセットが行われているのですが、ボディは最終塗装前にクイック・トレーディングに一度戻され、リセットが完了したメカニカルパーツの搭載が行われます。
その際に足回りのリセットも行い、ボディに取り付けられることになるのですが、他のパーツと同様に足回りのパーツも殆ど全てがリセットされます。特に、足回りは経年劣化と走行距離によって最も消耗している部分ですし、またリセットの効果を実感できる部分でもあります。

足回りもアームやリンクロッドまで全て分解し、部品のチェックを行いますが、特にブッシュやラバーブーツなどのゴム関係の部品はその殆どが交換されることになります。こうしたゴム類は経年劣化で必ずダメになる部品で、走行距離がいかに少なくても確実に消耗劣化します。

中古車市場においては走行距離がクルマの程度の目安とされ、
走行が少ない個体=程度の良い個体=メンテナンス不要と語られることが多いのですが、それらが全く当てはまらないのがこのゴム類で、製造から年数が経てば基本的には交換すべきパーツです。
中古並行のアルファ164Q4に8年間で15万キロ乗った感想ですが、
クルマの消耗劣化は走ったことにより劣化するものと、走らなかったことにより劣化するものがあると思います。走って劣化する部分はクルマの設計段階で交換を前提に設計され、さらに補修部品も手に入れやすいのですが、走らなかったことより(走行に関係なく)劣化する部品は、劣化しないように設計段階で一体化されていたり密封されていたりしており、それを交換するとなるとASSY交換となってしまったり、部品が手に入らないといった思わぬ障害が立ちはだかることがあります。
一番良いのはコンスタントに適度に走っている個体で、初期化メンテナンスを前提とした場合では、製造年数X5000kmあたりが最もコンディションの良い個体ではないかと思います。
走行距離に全く関係なく劣化する部品の一例がこのエンジンマウントです。走行しなくてもエンジンはマウントに載っていますので、年数が経てばマウントのゴムは劣化し潰れてしまいます。マウントが潰れるとエンジンの高さが下がり、エンジンの振動が大きくなったりミッションリンケージの角度が変わりシフトフィールが悪くなったりします。Deltaの場合はラジエーターファンはラジエーターハウジングに取り付けられていますが、Giulia系の場合はファンがエンジン側に付いているために、エンジンの位置が下がるとファンの位置も下がり、最悪はハウジングにファンの羽が当たり、砕け散ってしまうこともあるそうです。

そしてもう一つの例が配線部品です。イタリア車の配線は日本車と比較してその部品品質も製造品質も劣っており、新車のときからもトラブルの元となっていることはご存知のとおりですが、Deltaのようなエンジンルームの熱が抜けにくいクルマの場合は、その劣化がさらに進行しやすくトラブルの元凶となっています。



リセットに際してはこれらの配線も全てチェックし、トラブルの元であるコネクターを極力、耐熱耐久性の高い国産部品に置き換えて行きます。
電気系統のトラブルはその追求が面倒で、配線を順番にチェックして行くという推理ゲームとなってしまい時間がかかるのが常なのですが、こうしてリセットの際にその問題を事前に対処しておくことにより安心して乗ることができるようになるとのことです。
金属パーツは全てチェックされた後にブラスト処理され再塗装され、ブッシュ類を全て交換します。







またハブベアリングも基本的には交換されることになります。このベアリングも走行距離に関係なく劣化していく部品で、シーリングされたベアリング内のグリスは回転することにより潤滑性を保っていますが、一方で動かないままでいるとグリスは写真のように硬化してしまいます。


Deltaのショックアブソーバーは入手難の部品ですが、KONI製、BILSTEIN製ともにオーバーホールが可能です。またクイック・トレーディングは秘蔵の?ストックパーツも持っているそうです。

アッパーマウントは基本的にはウレタン製のブッシュでリプレイスするのですが、オーナーの希望でピロボール化することも可能だそうです。

コイルスプリングは余程のことがない限り交換の必要はないとのことですが、乗り心地に影響するストラットブッシュなどは全て交換することにより新車の乗り味が戻ってくるそうです。
エンジンリセットの記事で書き漏らしたのですが、こうした部品は全てブラスト処理の後に再塗装されるのですが、オーナーの希望により保護メッキ処理も可能とのことです。実はこうしたメッキ処理は協力工場を見つけるのが難しく、持込部品のメッキはメッキ槽を部品から出る不純物で汚してしまうためにメッキ屋に断られるケースが多いのですが、クイック・トレーディングでは持ち込み部品を徹底的に洗浄し脱脂することにより(それでもメッキ屋にダメ出しされるそうですが・・・)、こうしたメッキ処理も可能とのことです。

クラッチやブレーキの油圧シリンダーも経年劣化する部品です。これらもその後のトラブルを未然に防ぐために、交換されるかオーバーホールされ初期の機能を回復します。

近代化のモディファイとしてはインパネ照明のLED化が挙げられます。イタリア車の場合はインパネ照明が経年劣化で(新車からとも言えますが・・・)暗くなってしまい、製造年数によってはそろそろ球切れの連鎖に見舞われる時期です。これはオプションだそうですが、基盤の配線を作り直してLED化をしているそうです。

LEDの光色も選べますし、ちゃんと照度の調整も可能とのことですので、今後はリセットに際しては多くのオーナーがLED化するのではないかと思います。

ブレーキパーツも全てオーバーホールされるのですが、Deltaのリアブレーキキャリパーは欠品となっています。クイック・トレーディングでは独自のルートでこのキャリパーを確保しているそうです。重要保安部品ですので、不安を抱えたままでは安心して乗ることはできませんので、こうした部品を安定して確保していることはリセット作業を継続して行うことができる前提となっています。

そしていよいよボディにリセットしたエンジンやミッションなどのメカニカルパーツを取り付けて行きます。
殆ど全てのパーツを再度取り付けるのですから、それは
製造工場の最終アッセンブリー工程のようなものなのですが、それが個々に分業化されたライン作業ではなく、原則として一人のメカニックにより行われるのですから、要求される技術はワンオフでクルマを製作するようなものでしょう。




こうしてエンジンや足回りが再度搭載されたボディはわたびき自動車に戻されて、最終塗装の仕上げ工程に移ることになります。
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