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走ってナンボ

アルファ・ロメオを始めとする「ちょっと旧いイタ車」を一生懸命維持する中での天国と地獄をご紹介します。

ストラトスの苦難6 ~コーディネーションの重要性~

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事故の修復は単にリアカウルとフレームの修正ではありませんでした。潰れてしまったリアマフラーも再製作しなければなりませんでしたが、マフラーはもともとはC.A.Eが製作したもので、当然のことながら今となっては部品として存在してはいませんので、新たにワンオフで製作することとなりました。
そしてこのリアマフラーに関してS氏には拘りがありました。それは現状のマフラーに満足していなかったことによるもので、この際だから・・・とクイック・トレーディングに対して幾つかの希望を挙げることにしました。

それは、
・エキマニを等長とする
・マフラーは左右2本出しにし、先端部の形状については相談して決める
・触媒を追加する
・音は高音寄りにして音量そのものは低めにする

というもので、通常のマフラー製作においてはそれほど難しい要求ではありませんでした。そして実際の製造に当たっては、残念ながらオリジナルのスチール製と同じ材質で製造するには材料手配の問題でコスト高となるために、ステンレス製に変更となってしまいました。また、エンジンスペースの問題から等長のエキマニは不可能であることが分かり、左右の2本出しという希望も叶えられませんでした。音質や音量に関しては主観ですので何とも言えませんが、きちんと触媒が追加され、丁寧な仕事で美しい仕上げのマフラーではあったものの、少し悔いの残る結果となってしまいました。

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一方、下ろしたエンジンですが、事故でのダメージそのものはなかったものの、これも「この際」ということでクラッチの交換を行うこととなりました。

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もちろんこの整備費用は事故とは無関係ですのでS氏の持ち出しでの作業です。しかし、ご存知の通りエンジンの脱着は関係のない部分を傷めてしまうという二次災害を招く恐れがあり、本来の予定に加えて追加の作業が発生する可能性があるのですが、今回の場合はどちらにせよフレームの修正のためにエンジンを下ろさなければならなかったことと、ボディの修復のために充分な時間があったために追加整備を行うこととしました。

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充分な時間があったことは単にメンテナンスの時間が取れただけではありませんでした。私も前に見たときに気になっていたのですが、このC.A.Eストラトスにはアルファ・ロメオ155に搭載されていた2.5LのV6エンジンが搭載されています。ご存知の通りこのV6エンジンは世界一官能的なV6エンジンと呼ばれる名機で、その絶対性能よりもそのフィーリングが素晴らしく、エンジンとしての見た目も美しいのですが、その最大の見せ場とも言えるインテークパイプが錆びておりその美しさを殺いでいたのです。

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今回、メンテナンスの時間が充分に取れたことからクイック・トレーディングでもこのインテークパイプが気になっていたようで、作業の合間に錆を落として磨き上げて再装着しました。単なるメンテナンスやオーナーが拘っている部分だけでなく、こうした部分も綺麗になると気持ちの良いものです。

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綿引自動車で行われていた塗装作業に関しては何も心配するところはありませんでしたが、それと並行して、ボディに貼られていたステッカー類を手配しなければなりませんでした。
S氏によると、もともとはリアオーバーフェンダーのアリタリアロゴ、リアスポイラーの白抜き部分とその中のランチア&アリタリアロゴ、キャビンエンドピラーのベルトーネマークはペイントで再現されていたということですが、今回はカッティングシートで作成することとなりました。

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以前にクイック・トレーディングで出場した耐久レース用の車両にも使用したのですが、カッティングシートも随分と進歩しており、昔に比べるとその発色も耐久性も格段に進歩しています。しかも今までは難しかった曲面への追随性も改良されています。その耐久レースで見たポルシェ993なのですが、ボディ全体はガルフカラーである薄いブルーでボディ中央にはオレンジのストライプが再現され、素晴らしいガルフ・ポルシェの佇まいだったのですが、それがボディ色から全てカッティングシートによるものだと聞いて本当に驚いたものでした。

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今回も耐久性のあるカッティングシートを用いてこのアリタリアステッカーを再現したのですが、問題はAgipのステッカーでした。BILSTEINのものは造作もなく入手できたのですが、Agipのステッカーはなかなか手に入らなかったのです。理由は「Agip」が自社のブランド名を「Eni」に変更しているところで、Agipブランドのステッカーは今後は製作されず、市場からどんどん消えてるところだったのです。
これらはオーナーであるS氏の努力により、インターネットで何とか元のサイズのステッカーを入手し、ステッカーの問題も解決しました。こうした小物と考えられるステッカー類もレプリカモデルにとっては重要で、当時の姿を再現しようとすれば手を抜けない部分です。またS氏が前オーナーから引き継いだときに貼ってあった2004年のRALLY JAPAN公式ステッカーもS氏が事務局から当時の公式ステッカーを入手し、晴れてS氏自身の手で元の位置に貼ることができました。

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こうして何とか元の状態に戻ったのですが、それでもマイナートラブルは発生し、引き続き対策をしなければなりませんでしたが、それが事故の影響で発生したものではありませんでしたので、この記事では割愛させていただきますが、一筋縄ではいかないのは、やはりこのストラトスのようにワンオフに近い形で製造され、さらにあちこちで様々な手が加えられたクルマの宿命なのかも知れません。
しかし、一方で前回のクイック・トレーディングでのメンテナンスに加え、今回の事故修復によりこのクルマに関する個体情報がクイック・トレーディングに集積されることになったので、今後は遠回りをせずにトラブルシューティングができるのではないかと思います。

事故修復であれレストアであれ、それを実現するためにはコーディネーションが不可欠です。メンテナンスガレージ、板金工場、外注パーツ製作業者などに加えて、必要であればオーナー自身での作業も加えて、様々な分野のプロフェッショナルの仕事が結集してこそ最終的に満足度の高い結果が得られるのです。
メンテナンスガレージの役割は当にそのコーディネーションで、限られた予算(それが保険事故であれ)をどのように各工程に配分するのが最も良い結果を生むのか。どこを妥協し、どこを拘るのか。今すぐにやらなければならないことと、後からでもできることの優先順位づけ。納期管理と各工程での作業計画の作成。などをオーナーと一緒に検討し、その作業全般の中心となって実行することではないかと思います。
オーナーの想いと拘りを理解し、現実的な実行プランを提示するコンサルティング能力に優れ、様々なコスト対パフォーマンスのオプションを持っているメンテナンスガレージこそが、私たちのようなクルマを愛するオーナーにとって心強い「主治医」たり得るのではないかと思います。

最後になりましたが、今回の一連の記事を書くに当たりオーナーのS氏には膨大なレポートを作成していただき、それを資料とさせていただきました。またクイック・トレーディングにも作業中の写真提供や実際の技術的な解説など取材にご協力いただきました。この場を借りてお礼を申し上げます。
そしてS氏のストラトスがこれからもオーナーともども元気に公道を闊歩し続けるよう願っています。

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ストラトスの苦難5 ~部品探しの苦悩~

ストラトスの破損したリアカウルは新たに製作することにより修復できることになりましたが、一方でそう簡単には行かないのがテールランプなどのパーツ類でした。当然のことながらこういったパーツをワンオフで製作するなどはナンセンスで、とにかく世界中で部品を探すしかありません。必要だったのは円形のテールランプ、四角のリバースランプ、ナンバー照明灯の三種で、ナンバー照明灯はともかく、最も難航したのは円形のテールレンズでした。

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実はストラトスのテールランプはオリジナルパーツではありません。これはFIAT 850のものを流用し加工をして造られたもので、このランプを入手するにはストラトスの専用部品を探すよりFIAT 850のパーツを探したほうが簡単なのですが、そのFIAT 850用とて早々簡単に手に入る部品ではありませんでした。

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写真では分かりにくいかも知れませんが、ストラトスのテールランプはFIAT 850そのままの流用品ではなく外周部に黒いリング状の枠がついています。最悪このリングは補修して再利用するにしても中心のランプは入手しなければ先に進めません。またC.A.Eストラトスの場合はオリジナルのストラトスと異なり、四角い右側のリバースランプはリアフォグ(赤レンズ)とされており(上の写真を参照してください)、ランプ形状自体もオリジナルとは少し違う物だったのです。
どうしても原形に修復ということであれば、オリジナルのストラトスの部品ではなく、C.A.Eストラトスの部品を探さなければなりません。流石にそうなると入手は難しいだろうということになり、リバースランプは別のものを装着することも視野に入れて部品を探すことになりました。

問題はこの部品のサイズが決まらなければリアカウルを成型できないことで、部品そのものはともかくサイズを決定することが全体の工期に大きな影響を与えていたのです。
これも実際にこうした部品を探した経験がある方はご存知だと思いますが、この種の部品は「ある時はあるが、ない時はない」といった状態で、不思議なことにオークションも含めて市場から全く姿を消している時期もあれば、ざくざく出てくる時もあるのです。旧車を維持している方が部品のコレクターか?と思えるほど様々な部品を手許に持っているのはこのためで、試しにe-bayで調べて見ると現在のところ数点出品されていました(苦笑)。

確かにこの修理をしている時にこの部品探しに関しては私のネットワークも使って海外にも問い合わせてみたのですが、先月まであった・・・とか、また手に入るから気長に待て・・・などという返答が返ってくるばかりでした。
こうなるとクイック・トレーディングだけでなく、S氏も独自で部品を探すことになったのですが、S氏が最初に考えたのはC.A.Eと同様にストラトスのレプリカモデルを製造していたアタカエンジニアリングでした。しかしアタカエンジニアリングはAERと社名を変更し埼玉から石川に移転しており、当時のメカニックの方々も殆ど在籍していないという状態でした。それでもS氏はアタカエンジニアリングを退職し、独立してメンテナンスガレージを営んでいる方を探し当ててコンタクトすることができ、C.A.Eと同様にストラトスのレプリカを製造していたイギリスのホークカーズに部品を発注できるというハナシを聞くことができました。これで問題は解決!と思いきや、ホークカーズからの返答は遅れに遅れ、最終的に送られてきたパーツリストはその殆どが値段がPOAというものだったのです。POAとはPrice on Applicationの略で、所謂受注生産と同義で「注文があれば造って値段を出します」という意味です。すなわち私が問い合わせた海外の部品業者と同様で、要は「何とかするから気長に待て」と同じことだったのです。
これでは問題は何も解決しないと落胆していたところ、S氏のもとに耳寄りな情報が飛び込んできました。それは同じくストラトスレプリカのオーナーが破損したリアカウルを持っているというものだったのです。
そして現物を確認し、中古品ではあるもののようやくテールランプ一式とリバースランプも手に入れることができました。しかもリバースランプはC.A.E製とは異なりオリジナルのストラトスと同タイプのもので、事故前のものと比較しても進歩?と言える部品だったのです。

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一方でクイック・トレーディングではあまりに入手難のこの部品を何とかすべく、懇意にしている日本でも有数のABARTHコレクターである某氏を通じてイタリアからようやく部品を手に入れることに成功していました。しかし、こちらはFIAT 850用で周囲の黒いリングがないタイプのものであったため、こちらを予備部品とすることにし、S氏が入手した中古品を使うという方針で滞っていたカウルの最終成型も再始動となりました。

またリアカウルの成型と並行してフレームの修正は綿引自動車で行うこととなりました。
そして同時にクラッチ交換などの整備も行うこととなり、クイックトレーディングでエンジンを下ろして、車体を綿引自動車に運ぶこととなりました。

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フレームの修正は綿引自動車で行ったのですが、かねてから疑問に思っていたのが旧車の事故修復歴についてです。
中古車で問題となる事故修復歴ですが、こと旧車に限ってはそれが必ずしもマイナス要因とはならないと思うのです。
現在のフレーム修正技術は格段に進歩しており、その測定は最新の設備であればミリ以下の単位で行われ、実際のフレーム修正は通常の修正機であってもミリ単位で行われます。

一方でそれらのクルマが新車で製造されていた時代の製造公差はセンチ単位であったのです。伊藤忠モータースで新車でアルファ・ロメオを販売していた方から以前に伺ったハナシですが、ジュリアが製造されていた当時、アルファ・ロメオはフレームの製造公差は最大で1.5cmであるとメンテナンスマニュアルに書いていたそうです。それはすなわち左右のホイールベースの差にも影響するはずで、まっすぐ走らせるためにはホイールアラインメントで調整を必要としたでしょう。このアライメント調整はメーカーの仕事ではなくディーラーの仕事でした。なぜなら輸送中に狂う可能性もあるために、メーカー出荷時には厳密なアライメント調整は行わず、こうしたデーターをメンテナンスマニュアルで各地のディーラーに提供し、納車前に調整してメカニックが試運転を行った上でオーナーに引き渡すのが通常だったのです。
もちろん当時のボール&ナット式のステアリングでは中立での遊びが大きいために、これらの誤差は吸収されてしまうのでしょうが、それが当時の製造公差のレベルであったことも事実だと思います。
正規のインポーター経由ではなく新車並行で購入された方や中古車を購入された方は、まずはホイールアライメントを測定し、規定値で整備することをオススメします。タイヤの片減りの原因となったり、真っ直ぐ走らないために「事故車では?」とあらぬ疑いを持ってしまうことにも繋がりかねません。

ハナシを元に戻しましょう。そのように製造された旧車を事故で修復する際には現在のフレーム修正機を使って修復するのですから、もしいい加減な修理ではなく、綿引自動車のような整備技術をもった工場で修理されたのであれば、その事故車は新車以上の精度を持つこととなります。
クルマ選びの際に事故修復歴のないクルマ…と言われるのは事実ですが、こと旧車に限っては前述のフレーム修正だけでなく、現代の最新技術で板金や溶接をされた事故修復車は新車以上・・・と言えるかも知れません。もちろんこれはあくまで技術論であり、オリジナルに拘る方や劣悪な修理技術の問題とは別であることは言うまでもありませんが、もし私自身が旧車を購入するとすれば事故歴は問題とせずに、むしろどこで修理したかを問題にするでしょう。そしてその「どこで修理したか」を問題にしなければどれだけ悲惨な目に逢うか・・・というハナシは別の機会にご紹介したいと思います。

綿引自動車で行われたフレームの修正は素晴らしいもので、オリジナルのものよりも優れた精度のフレームが出来上がりました。

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こうしてリアカウルの成型とフレーム修正をしている間に行った作業はエンジンの整備とマフラーの製作でした。

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ストラトスの苦難4 ~隠された職人技~

リアカウルの修復に際してクイック・トレーディングが選択したのは、現状のパーツから新しく型を作ってFRPボディを製作するというものだったのですが、それは決して一般論として「どこかに頼めば出来るだろう」と考えたのではなく、その作業を行う技術を持った信頼できる業者を知っていたからこそ決めた選択でした。それは群馬県の伊香保にあるポリクラフトという会社で、様々な国産/外国車のFRPパーツを製造している実績のある「知られざる名社」でした。
もちろん検討された選択肢の中でコストも時間も一番かかかる方法ではありましたが、完全に修復するという目的からすると、その信頼できる会社に頼むことさえできれば一番リスクの少ない方法であることも確かでしたので、保険会社の担当者を実際に伊香保の工場にまで案内しその作業内容を説明することにより、そのコストを承認してもらいました。

FRPで造られるパーツの造り方についてはご存じない方も多いのではと思いますので、この機会にその工程も含めて実際に行った作業についてご説明しましょう。

そもそもFRPとは、繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics、FRP)の略称で、ガラス繊維などの繊維を樹脂の中に入れて強度を向上させた複合材料のことを言います。「ガラス繊維など」と書きましたが、近年はガラス繊維の代わりに様々な材料が使われており、皆さんが良くご存知の材料がカーボンファイバーと呼ばれる炭素繊維があります。ガラス繊維に比べて軽量かつ強度が高いのが特徴で、ガラス繊維を用いたFRPに対してCFRPと呼ばれています。さらにケブラーやダイニーマなどの材料も用いられていますが、基本的な製作方法は同じです。

FRPで整形品を作る場合は、まずマスターモデルと呼ばれる型を作ります。通常はケミカルウッドと呼ばれるポリウレタンで作られるのですが、名前の通り木材のように加工性には優れているにも関わらず、木材のような木目がないためにマスターモデルの製作には適した材料です。しかし強度はそれほどありませんので、そのままマスターモデルを製品として使うことはできません。今回はマスターモデルを造る代わりにこの破損したリアカウルを使用するのですが、当然のことながらこれだけ破損していますので実際にはベースモデルとしてしか使えません。欠損した部分やヒビが入った部分を樹脂で補い、さらに各所に補強を入れてマスターモデルとして使用できるレベルまで仕上げなければなりませんでした。

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マスターモデルを製造する際には、型から成型品を抜く際にひっかかって抜けないように、型割りと呼ばれるパーツ構成をしておかなければなりません。今回製作したマスターモデルは元々FRPで製造されていたパーツ割に準じることにしたのですが、それはカウル本体、ルーバー、トランクリッド、テールスポイラー、ルーフスポイラーの5点にも上りました。それぞれのパーツをオリジナルとなる破損したものから修復するのですから、それだけでも大変な作業です。

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マスターモデルが出来上がったらそれをベースにしてFRPで雌型を作成します。雌型とは本製品を製作するためのベースとなるものです。最終的にはマスターモデルから雌型を作成し、それを元に雄型(本製品)を製造するのですから本製品の厚さや収縮を見込んで雌型は製作されなければならず、この辺りの加減が上記の技術と経験がモノを言う場面なのです。マスターモデルとなる原型が出来上がったらチェックのために実際に現車にもう一度合わせてみて必要に応じて微調整を行います。FRPパーツの出来上がりを左右するのがこのマスターモデルと雌型の製作で、最も技術と経験を必要とする部分です。

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雌型が出来上がったらそれをベースに離型剤を塗り、ゲルコートを塗って硬化させたらガラス繊維に樹脂を染み込ませて気泡を抜きます(「脱泡」と呼ばれています)。気泡が少しでも残っていると強度がなくなるだけでなく最悪は硬化の際に割れてしまうこともあるので、この脱泡は重要な工程です。FRPボディの塗装表面がしばらくするとブツブツになるのはこの脱泡が不充分で、塗装後にFRPの内部から気泡が出てくることが原因です。そして充分脱泡できたら温風温熱乾燥炉で熱を加えて硬化させます。
硬化が完了したら常温まで自然冷却し、雌型から製品を抜き出します。余分な部分をカットして、さらに表面をサンディングし必要に応じて穴開け加工をしたり補強が必要な部分にはFRP樹脂板で肉厚を調整したりします。
さらに下地処理を行いサーフェイサーを塗って研磨して本塗装ができるまでに仕上げれば完成です。

FRP製造の工程は以上ですが、技術的に大別するとマスターモデルと雌型の製作と実際のFRP製造とに分けられ、マスターモデル若しくは雌型さえあれば、FRP製品そのものは比較的簡単に作ることができます。やはり一番難しいのがこのマスターモデルの製作で、今回のように既にある現物の微妙なラインに合わせるためには、FRPの特質を知りつくして完成品に発生する成型誤差を計算に入れた製作技術が必要となるのです。

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聞けば、ポリクラフトという会社はこのマスターモデルの製作がメインで、FRP製品そのものの製造は殆ど行っていないそうです。つまり自動車メーカーやパーツメーカーなどはポリクラフトにマスターモデルを発注し、そのマスターモデルや雌型を他のFRP製造メーカーに支給してFRPパーツを製造させているのが実際なのだそうです。今回はワンオフということで最終の製品までこのポリクラフトで製作してもらったのですが、そこには職人の誇りをを感じさせてくれるエピソードがありました。

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普通のFRP製品は硬化する際にヒケや歪が出るのは止むを得ないもので、その場合はパテを使って表面処理を行うのが普通なのだそうですが、本来ならばマスターモデルがちゃんと出来ており、その後の工程を完璧に行えばパテを盛らなければならないような修正は必要ないのだそうです。それはすなわちマスターモデルの出来が悪いか、FRP成型工程ミスのどちらかが原因なのですが、塗装工程でルーフスポイラーに僅かなヒケが見つかりました。塗装を担当した綿引自動車にとってはその経験からすると、この程度のヒケはFRPボディでは当たり前のレベルで、パテを盛って成型して塗装してしまうものだったそうですが、一応ポリクラフトにその旨を連絡したところ、ポリクラフトは再度製作し直したそうです。自分達の技術に対する誇りが後工程である塗装工場でのパテ修正など許せなかったのでしょう。

またこうして新しく製作したリアカウルは単に原型を修復しただけではありませんでした。それは使われた最新の特殊樹脂とその強度で、オリジナルと同じFRPパーツでありながら、エンジンからの熱に対応すべく最新の耐熱樹脂を用い、さらに重量を増さずに強度を高めることができたために、オリジナルのC.A.Eストラトスはおろか、ホンモノのランチア製のストラトスより優れた、おそらく世界中のストラトスの中で一番優れた品質のリアカウルとなったのです。
このことはオーナーのS氏も実感することができました。S氏によると以前はリアカウルを開ける際には片側を持ち上げるとカウルが撓み、すこし遅れて反対側が開いていたのが、修復後のカウルは片側を持ち上げるとちゃんと反対側も「一緒に」持ち上がるそうです。

その手間と時間は別にして順調に製作されたように見えるリアカウルですが、実はそれほど簡単ではなかったサイドストーリーがあったのです。

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ストラトスの苦難3 ~復活への路~

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クイック・トレーディングで詳細にチェックして見ると、そのダメージは思ったよりも深刻なものでした。
リアカウルは大破し、その衝撃は一部コクピット部分のある中間セクションにまで及んでいました。しかし、幾つかの不幸中の幸いによりそのダメージを減じていたことも分かりました。

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その一つ目の不幸中の幸いは、意外にストラトスのボディ構成だったのです。それはリアカウルの強度がそれほどなく、FRPでできたカウルごと上に跳ね上げる形式であったために、ぶつかった衝撃でカウルが上にめくれ上がり、結果として衝撃を逃がしていたということです。これがもしスチール製のモノコックボディであったなら、ボディ全体でこの衝撃を受け止めることとなり、おそらく修復不能なダメージを受けていただろうと思われます。見かけは悲惨な状態ですが、FRPボディが車体の応力を担う一部ではなく単なる外板であったことが一つ目の不幸中の幸いです。

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二つ目の不幸中の幸いは、ストラトスがミッドシップ形式であったことです。リアセクションはボックスフレームとなっており、かなりの強度があったことも幸運で、フレームは受けた衝撃で曲がっていたものの、それは単純な構造のために充分修復できるものであったことです。

そして三つ目の不幸中の幸いは甘かったサイドブレーキです。S氏のレポートにあるように衝突の衝撃でクルマが吹っ飛んだことからも、追突のエネルギーの全てを車体で吸収したのではなかったことが想像できます。これが登り坂であったり、しっかりとサイドブレーキを引いていたのであればダメージはもっと深刻であったろうと思われます。

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仔細な検分の末にようやく修復のポイントは判明したのですが、やはり最大の問題はボディ修復でした。Gr.4仕様のストラトスのリアカウル・・・は注文して翌日届く部品ではありません。考えられる修復方法は三通りあり、それぞれを検討することとなりました。
まずは、今あるダメージを受けたカウルを修復することです。繰り返しになりますがFRPボディは車体剛性とは関係がなく、仮に破片であってもそれを繋ぎ合せて接着することによりその修復は可能です。もしなかなか入手できないFRP製のスポイラーなどをヒットしてしまったら、可能な限りその破片を拾い集めておくことがその後の修理には重要です。
しかし、大きな部品であるために仮に割れていない部分であっても歪が出ているために、補修したとしても元の形状に戻すことは困難に思われました。

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次に同様のリアカウルを入手する方法です。これは私もお手伝いをしたのですが、世界中を探してやっと見つけたのがイタリアの業者が売りに出していたGr.4用のリアカウルでした。しかも中古品ではなくちゃんと塗装前の新品です。そしてお値段も日本に送る送料を加えて考えても充分安かったのですが、問題もありました。その一つはカウルの形状で、この個体よりもフレアが大きいタイプのものであったのです。さらに海外の業者ということもあり本当に写真の通りのものが届くのかどうかという不安もありました。

そして最後の選択肢はこの壊れたカウルを型にして一から新しいカウルを造るというものです。コストとその時間は前の選択肢よりも遥かにかかってしまいますが、この方法は一番安心できる方法です。

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さらにこれらの選択肢のどれを取るか・・・に際して重要な要素はその資金です。
今回の事故の場合、事故相手は対物保険に入っていることに加えて、S氏も自分の車両保険に加入していました。しかし、経験された方はご存知のように、保険会社はその事故査定によりクルマの価値以上の修理費は払ってくれません。
しかもS氏が最初に連絡した自身の加入する保険会社はその初期対応先である事故受付センターの応対はあまり良いものではありませんでした。
相手が飲酒運転であったことを説明すると、相手の保険が下りない可能性があると言われたとのことですが、近年の飲酒運転による悲惨な事故から、保険会社の社会的責任が重視されるようになり、現在は被害者救済という立場から、例え保険契約者が飲酒運転をしていても事故相手の被害弁済のための保険項目はちゃんと支払われるようになっています。
その後の担当者の対応はちゃんとしており、その辺りの説明もきちんとされたそうですが、CMで通販型の保険会社がアピールしている事故受付センターでの初期対応が、実際にはどれだけ難しいことかを考えさせられるエピソードでした。

そしてようやく相手方の保険会社と連絡を取ることができました。今回の場合は相手が飲酒で警察に拘留されているために、まずはS氏から事故の経緯を含めて説明するしかなかったのですが、そこで一番の問題はこのC.A.Eストラトスというクルマについてでした。
通常の事故の場合はトヨタの○○で年式は・・・という説明で済むのでしょうが、ストラトスというクルマについてはおろか、それがC.A.Eというレプリカモデルになるとクルマ好きの方でも知っているヒトは稀で、ましてや保険会社の社員という立場で、職業としてクルマに関わっているヒトであれば知らなくて当然で、むしろ知っている方が異常と言って良いでしょう。
幸いなことに相手が加入していた保険は「対物無制限」という条件でした。しかし、前述のように無制限といってもそのクルマの価値以上の修理費は保険では下りません。ということは、査定に当たって最大の課題はこのクルマの価値が幾らかという問題となります。これまた経験されている方は多いのではないかと思いますが、保険会社は再調達価格をベースに査定します。すなわち今、そのクルマを買うと幾らか・・・であって、そもそもそのクルマを幾らで買ったかではありません。変態旧車(笑)に乗っているオーナーの最大の悩みがこの査定方法で、市場価値のないクルマをどんなに費用をかけて維持していたとしても、一旦事故の査定となると二束三文の全損査定しかされないのです。

しかし、S氏のC.A.Eストラトスは中古車として流通しているクルマではありません。また仮にあったとしてもそれは「相場」を形成する台数ではないために、一般的な査定方法が適用できるクルマではありませんでした。このようなケースでは一般的な判断とは異なり、保険会社の担当者の理解と判断によって大きく左右されるケースなのだそうですが、S氏にとって幸運であったのはこの相手方の保険会社とクイック・トレーディングとの信頼関係が深かったことでした。

メンテナンスガレージは事故修理で様々な保険会社と関係があるのですが、中には保険金詐欺まがいの法外な修理見積もりを出したりして保険会社のブラックリストに載るメンテナンスガレージもあるようです。クイック・トレーディングが特に今回の保険会社との間に信頼関係を築いていたことは、このC.A.Eストラトスというクルマに関しての情報と、その修理費の概算見積もりに関する信憑性について保険会社側を納得させるに充分だったのです。
一方でS氏は補完資料として当初の購入費に加えてこれまでの修理費などの書類を整え、晴れて保険会社から修理OKの判断を得ることができました。そしてこれ以降はむしろ、「頑張って修復しましょう」と逆に励まされるほどになったのです。この修理の後にS氏はその当時の保険会社から、今回の事故の莫大な修理費を払う側であった相手方の保険会社に自身の保険契約を移しました。以前の記事でコストを負う側の論理云々と書きましたが、目先の利益を最優先に考えるのではなく、問題に真摯に向き合い、相手の立場に立って論理的に問題解決を図ることが如何に重要であるかを考えさせてくれるエピソードです。

こうして修理費について心配する必要がなくなり、後はどのように修復するかという方針を決めるだけとなりました。最終的に取られた選択肢は最後の現状のカウルをベースに新しくパーツを造るというものでした。しかし、この選択をするためにはそれだけの技術力をもったFRP製作業者がいなければなりません。
ここでもクイック・トレーディングのネットワーク力が発揮されることとなります。

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ストラトスの苦難2 ~30分の逢瀬~

その日の朝、S氏はガレージからやっと帰ってきた愛車を引き出してガソリンを満タンにしてドライブに向かいました。そしてドライブルートの途中である福生から奥多摩に向かう奥多摩街道の路肩に、S氏は写真を撮るためにクルマを停めたのです。これまた私たちのようなクルマ好きにはごく自然な行為で、ましてやこれだけ長い間手許になかった愛車がやっと帰ってきたのですから、S氏の気持ちは痛いほどに分かります。クルマを停めた道路は本車線こそ片側1車線づつですが、本車線・路肩共にかなり幅広な上に歩道も路肩とは別に設けられた見通しの良い直線区間でした。そしてクルマから降りて反対側からカメラを構えて写真を撮ろうとしたときに…その惨劇は起こりました。

最初S氏には何が起こったのか分からなかったそうです。ブレーキのスキール音も一切なく、ドーンという音と共にデジカメのフレームの中から自分のクルマがなくなり、代わりに軽自動車が写っていたのです。
一瞬の後に事態が飲み込めました。路肩に停めたストラトスの真後ろから軽自動車が追突して来たのです。

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以下はS氏のリポートです。その場の状況はやはり当事者であるご本人の証言?が一番的確だろうと思います。

『まるでビリヤードを見てるような見事な追突で相手のクルマは私のクルマのあった位置に停まりエアバッグが開いてました。
乗っているのは運転手一人だけですが、ぐったりしてるようで中々降りてきません。
見ていると(エアバックのガスと思われる)煙が室内に充満しだしたので、火災の危険もあると思った私は外からドアを開け、早く車外に出るよううながしましたが、ハンドルに顔を預けるような状態でこちらを向こうとせず返事だけは返してました。

「腹が痛い」とか「大丈夫だからちょっと待って」

とか言ってたと思います。

とにかく救援をと思って携帯電話の電源を入れ(こういう時、常時OFFがたたりますね)110番したまさにその時、奥多摩方面から偶然にパトカーが走ってきたので、これを呼び止めて交通事故の手配を頼みました。

現場は福生警察署のすぐ近くだったので10分くらいで事故処理班がわらわら集まって来ました。この間私は路面にちらばったパーツをかき集めたり保険会社に電話したりしていたのですがふと振り返ると、ぐったりしていたはずの相手の運転手が車外に出て普通に警察官と話をしていました。

その警察官が私の方にやってきて簡易事情聴取をしたあと、

「相手さんね、飲酒みたいなんでこのまま署に連行します。あなたにも署での事情聴取にご協力頂きたいのだけれど。」

と告げられました。

協力はいいけれどクルマをなんとかしなけりゃならないことを話すと、警察官が相手の運転手に私に詫びを入れるようにうながしました。

が、相手の態度がへらへらしていたので、

「謝ってもらわなくていいが、弁償はしてもらいますよ。」とだけ返しました。

その後、警察官2人とパトカー1台残して相手の運転手と他の警察メンバーは撤収。
しばらくして相手のクルマも警察署にレッカーされていきました。』


S氏のショックはいかばかりだったかと思います。もちろん不幸中の幸いはS氏がクルマに乗っておらず、怪我がなかったことで、もし乗っていたら最低でも鞭打ちで首をやられていただろうと思うのですが、一方で自分の愛車が目の前で無残な姿になるのを見るというのも、我が身を痛めるのと同様に心が痛むであろうことは想像に難くありません。しかもこの事故に至るまでの時間はS氏が自宅のガレージを出発してから30分後のことだったのです。

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ここまで様々なトラブル(人的なトラブルも)を経験し、1年半の時間を費やしてメンテナンスを行った末にやっと乗れるようになって手許に帰ってきた愛車との逢瀬はたった30分で終わってしまったのです。

損傷の程度は写真で見ていただけるとお分かりの通り、通常の量産車であれば間違いなく「全損」という状態でしたが、S氏によれば治すという選択肢以外は考えられなかったとのことです。もちろん100%相手に非のある事故であったこともあるでしょうが、一方でこのクルマを治すことのできるであろう信頼できる主治医と出会っていたことは大きかったろうと思います。

警察での事情聴取を終えてS氏はクイック・トレーディングに連絡をしクルマを運ぶことにしたのですが、後に聞いたところによるとクイック・トレーディング側もクルマのダメージに関しては「見てみなければ分からない」との判断で、まずは運んで来てからというスタンスだったそうです。考えて見れば当たり前で、どんなに外観が無残な状態でもフレームやメカニカルパーツにダメージが少ない場合もあれば、一方でその逆もありますし、一見して何ともないと思っていても、プロがチェックすると大きなダメージを受けている場合もあるのです。

一方でレッカーで運ばれて来たクルマを見たクイック・トレーディングは驚きを隠せませんでした。仕事柄数多くの事故車を見て来てはいますが、メンテナンスガレージに入庫する事故車は修理を前提としていますので、全損事故に匹敵するような大事故の車両は、現場検証の後にそのまま解体業者行きになってしまうためにそうそうは入庫して来ません。それでもこのクルマの過去の経緯とオーナーのS氏の熱意を知っているために、クイック・トレーディングも修理をすることを決意します。それは「決意」と言って良い決断で、メンテナンスガレージとしての知識と経験を総動員して当たらなければならない修復作業となって行くのです。

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テーマ:イタリア車 - ジャンル:車・バイク

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